コロンビア=右派大統領選候補ウリベ氏死去=銃撃の2カ月後、政局に影響も

11日付ヴァロール紙など(1)(2)(3)によると、南米コロンビアの上院議員で、26年大統領選に向けた有力野党候補だったミゲル・ウリベ氏(39歳)が11日、病院で死亡した。
同氏は6月7日、首都ボゴタで行われた選挙集会での演説中、頭部に2発、左脚に1発の銃弾を受けて重傷を負い、約2カ月の集中治療を受けていたが、ここ数日で容体が悪化。脳内出血で危篤状態にあった。
事件の様子は市民によって撮影され、複数の動画がSNS上で拡散。国内外に大きな衝撃を与えた。事件当日に発表された警察報告によれば、実行犯とされる人物は未成年で、現場近くで身柄を確保された。だが犯行動機や背後関係は明らかになっておらず、検察当局が捜査を続けている。
ウリベ氏は2012年に政治キャリアを開始し、25歳でボゴタ市議会議員に当選。22年には、アルバロ・ウリベ・ベレス元大統領の推薦を受けて上院選に出馬し、22万6922票を獲得して全国最多得票の上院議員となった経歴を持つ。保守系政党「民主中心党」に所属し、現職のグスタボ・ペトロ大統領の左派政権に対して強い批判を展開していた。
とりわけ、政府による和平政策や麻薬取引組織との対話路線に反対し、治安回復を最優先課題として掲げていた。26年の大統領選挙に向けては、党内の有力候補として支持を広げており、右派勢力の旗頭として注目されていた。
同氏は、1978〜82年まで大統領を務めたフリオ・セサル・トゥルバイ・アヤラ氏の孫だ。母親はジャーナリストのダイアナ・トゥルバイ氏で、1990年、左翼ゲリラ「民族解放軍(ELN)」指導者への取材を名目とする誘いに応じた結果、麻薬王パブロ・エスコバルが率いる犯罪組織「ロス・エクストラディタブルス」に拉致され、翌年、救出作戦中の銃撃戦で命を落とした。
ウリベ氏の襲撃事件を受けて、ペトロ大統領をはじめ政権幹部は強い非難声明を発表。民主主義への攻撃だとして、犯人の厳正な処罰を求めた。政権内からは、和平合意を拒否し武装活動を継続していた極左過激組織「コロンビア革命軍(FARC)」の元構成員や、麻薬密売組織「マフィア」の関与を指摘する声も出ているが、現時点では具体的な証拠は示されていない。
事件が起きた週に、ペトロ政権は議会の承認を経ずに、政令によって憲法改正を含む政策の是非を国民に直接問う国民投票を実施しようとしており、立法府を迂回する手法に対して野党や法曹界から「権力の乱用」との批判が噴出していた。こうした中での野党有力候補への襲撃という事態に、政情不安定化や民主的プロセスの形骸化を懸念する声が一層高まっており、事件の背景にはこうした政治的緊張が影を落としていた可能性もあるとの見方が出ている。
ルス・アドリアナ・カマルゴ検事総長はいくつかの仮説に基づき、捜査を進めているとし、今回の襲撃には「政治的意図や組織的背景」が存在する可能性があると見ている。
ウリベ氏の死去は今後の大統領選挙に向けた政局に影響を及ぼす可能性があり、国内では政情不安の再燃を懸念する声も高まっている。一方で、同氏が掲げていた教育・医療インフラの整備や、地方部への公共サービス提供の強化といった政策課題については、与野党を超えた議論が求められている。