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《記者コラム》NoBの訃報に揺れたブラジル=「ペガサス幻想」歌手

2025年8月15日

G1によるNoBの訃報記事(Reprodução)
G1によるNoBの訃報記事(Reprodução)

 13日、ブラジルメディアで驚くことが起こった。国内最大級のG1サイトを始めとする多くのメディアが、日本からのある訃報を一斉に報じたのだ。それはNoBこと山田信夫氏の訃報。日本のアニソン歌手のものだ。紙面での扱いの大きさは、日本でのそれを上回っていると言っても過言ではなかった。

 ブラジルにおける「聖闘士星矢」の文化的浸透はそれほど極めて大きなものだ。NoBは90年代にブラジルでも放送された同番組の主題歌「ペガサス幻想(ファンタジー)」を歌っていた。原作者や主演の声優ではなく、主題歌歌手の訃報がここまで大きく報じられるというのは極めて稀だろう。

 しかし、これは当地に住む者にとっては納得させられるものだ。コラム子にはこんな経験がある。今から10年近く前の2014年、ブラジルで「聖闘士星矢」の最新映画(当時)の公開があった。コラム子がたまたまサンパウロ市パウリスタ大通りの老舗ショッピングセンター「セントロ3」の喫茶店で待ち合わせをしていた時、同じフロアの映画館で公開記念イベントが行われていた。たしか日本から関係者がはるばるこのイベントに参加していたように思う。

 フロアには熱心な聖闘士星矢ファンが群がっていた。年齢は大半が30代の男性だったと思う。彼らはイベントが始まる前から、興奮を隠せない様子で、まさにこの「ペガサス幻想」を野太い声で、しかも日本語で人目もはばからず大きな声で合唱し始めた。サビの部分の「セイント、セーヤー!」の掛け声がフロア上に響き渡った。それはまるで、コリンチャンスのファンがスタジアムに行くまでの電車内で応援歌を歌うノリと全く変わらない。それが数10分間続き、ある種、異様な光景だった。

 この体験をした身からすると、この訃報の扱いの大きさは不思議ではなかった。彼らにとって、「聖闘士星矢」はアニメや日本との貴重な架け橋だったのだ。ブラジルと日本の間には60年代の「ナショナル・キッド」や80年代の「ジャスピオン」「ジライヤ」といった実写ヒーロー物の結びつきも強いが、それをアニメでさらに強烈にアップデートしたのが星矢だったのだろう。

 アニメ自体は吹き替えなのに、歌は日本のものがそのまま使われたことも日本へのミステリアスな好奇心を高めた。さらに、「ペガサス幻想」はヘヴィ・メタル調のアニソンの走りとでもいうべき曲だが、それが国際的なヘヴィ・メタル消費大国であるブラジル人の琴線に触れた部分もあったように思う。

 「聖闘士星矢」が繋いだブラジルとの絆の強さは今回のことからもしっかりと感じられた。(陽)


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