米農業団体がブラジルを批判=当地勢は真っ向から反論

【既報関連】「米国通商法第301条」に基づき、米通商代表部(USTR)がブラジルの貿易慣行の調査を行う中、米国の主要農業団体が7月中旬以降、ブラジル政策に対する厳しい批判を盛り込んだ文書を相次いで提出した。豚肉、牛肉、エタノール、綿花など多岐にわたる品目について、非関税障壁や不当な環境規制、森林破壊などの問題が指摘され、ブラジルの貿易・農業政策が米国農業の国際競争力を著しく損ねていると訴えたと3日付CNNブラジル(1)が報じた。
豚肉業界を代表する全米豚肉生産者協議会(NPPC)は、ブラジルが科学的根拠を欠いたまま米国産豚肉の実質的な輸入禁止措置をとっていると批判し、「非関税障壁の撤廃を通じ、米国産豚肉の市場アクセスを回復すべきだ」とUSTRに対応を求めた。ブラジルが世界貿易機関(WTO)のSPS協定に違反し、輸入品に自国製品以上に厳しい基準を課していると非難した。
米国ファームビューロー連盟(AFBF)は、ブラジルのエタノール関税が市場アクセスを妨げており「農家に深刻な影響を及ぼしている」と主張。米国企業が他国の気候政策、特に森林保全政策の対象とならないよう、USTRと米農務省(USDA)の積極対応を求めた。
ネブラスカ州トウモロコシ生産者協会は、ブラジルの炭素制度や関税が米国産エタノールを事実上締め出しているとし、「森林破壊によって拡大するブラジルの農業生産は公正な競争を脅かす」と訴えた。
全米肉牛生産者・牛肉協会(NCBA)は、ブラジルが非関税措置で米国産牛肉の流通を妨げていると指摘。過去5年間の輸出額はわずか2100万ドルにとどまり、今年6月までの実績は約42万ドルにすぎないと明かした。NCBAは「ブラジルの不公正な貿易慣行には断固たる措置が必要」とし、米政府による輸入停止措置の再導入を求めた。
米国牧場主・肉用牛生産者財団(R―CALF)は、ブラジルの食品安全管理の実効性に疑問を呈し、「疾病の報告遅延や汚職の記録が、米国の食肉供給と国民の健康を脅かしている」と批判。
綿花業界の全米綿花評議会(NCC)は、ブラジル産綿花が米国産より低価格で市場を圧迫する背景には、セラード地域での違法伐採や土地収奪があると主張。非営利団体による調査では、違法行為に関与した農場が綿花を輸出していた実態も明らかにされたという。
NCCはブラジルの税制面にも言及。企業の売上に対し課される社会統合基金(PIS)や社会保険融資納付金(Cofins)といった連邦税について、輸出に対する免税措置や輸送・保管費用の税控除が優遇されているとし、この制度が実質的な輸出補助として機能していると問題視した。
これらの批判に対し、米ワシントンで3日に開催されたUSTR公聴会では、ブラジル側も反論を展開した。全国農業連合(CNA)の国際部門責任者スエメ・モリ氏は「ブラジルの農業競争力は自然資源や技術投資といった正当な要素に基づいており、不当な貿易・環境慣行に依存していない」と主張し、米国の指摘を強く退けた。
同氏はさらに、ブラジルの農業は厳格な法令遵守の下で運営されており、安全性や透明性も確保されていると強調。ブラジルの農業生産の5・5%のみが特恵関税の恩恵を受けており、輸入では90%以上が「最恵国待遇(WTOが定める、一国に与えた特別な優遇は他国にも平等に適用する原則)」に則っていると説明した。(2)
エタノールに関しては、ブラジルが24年にインドからの17倍の量を米国から輸入した実績があることを挙げ、「市場閉鎖」の主張は事実に反すると反論。環境分野でも、国内法により私有地を含めた原生植生の保全が義務付けられており、国土の66%が原生植生で覆われていると強調した。
他方、全国工業連合(CNI)は同公聴会で「ブラジルは米国を不当に害するような政策を採っていない」と述べ、通商政策の正当性を擁護。CNI代表コンサルタントのロベルト・アゼヴェド氏は、「ブラジルが意図的に米国の利益を損なっているという見方は根拠がない」とし、米側の主張に真っ向から反論した。
同氏は、調査対象となっているデジタル貿易、電子決済、関税優遇、知的財産、エタノール市場、環境保全の6項目に対し、ブラジルの対応が整合的であることを説明。「米国と伯国は西半球の二大民主国家として対話と協力に基づく関係を深めるべきだ」と呼びかけた。(3)(4)
ブラジル側は貿易・環境政策の正当性を主張し、米側の調査そのものに対しても「USTRに調査権限はない」とする公式見解を8月中旬に提出している。