最高裁に国際メディアも注目=「トランプを挑発」と米紙

国際社会が注視する中、ボルソナロ前大統領を含む被告8人に対するクーデター未遂容疑の裁判が2日、最高裁(STF)で再開された。外国メディアはこれを「民主主義の節目」と位置付け、ボルソナロ氏とトランプ米大統領の関係が外交問題に波及していると指摘したと3日付G1など(1)(2)が報じた。
米ワシントン・ポスト紙は『ブラジル判事、ボルソナロ裁判開廷に際しトランプを挑発』との見出しで、23年1月8日に発生したボルソナロ支持者らによる三権中枢施設襲撃事件が、「21年1月6日に、トランプ支持者が米国議会議事堂でバイデンの勝利承認を妨害した試みを彷彿とさせる」と伝えた。
報告官アレッシャンドレ・デ・モラエスSTF判事が、トランプ氏や米国を直接名指しこそしなかったが、「他国が司法への干渉を試みた」と指摘し、ブラジル司法の主権と独立性を強調したことを伝えた。
英ロイター通信も同様に、モラエス判事の発言が米国を間接的に示唆したと報じ、「STFはトランプ氏の圧力を退けつつ、ボルソナロ氏のクーデター未遂疑惑裁判の結審に近づいている」と伝えた。「歴史的な裁判が再開されたこの日、判事はこの裁判を民主主義の擁護と位置付けた」と解説。ボルソナロ氏らが「暗殺計画」や「武装組織の結成」に関与したとの容疑も含まれている点や、有罪の場合には最大で30年以上の刑が科される可能性がある点も報じた。
一方、英エコノミスト誌は、ボルソナロ氏を「熱帯のトランプ」と形容し、今回の裁判が「米国左派にとっては夢のようだが、ブラジルでは現実」と論評。同誌は、三権中枢施設襲撃事件について「奇妙かつ野蛮な暴動」と表現し、襲撃直前までブラジリアの軍基地前にはビールやバーベキューが提供される一種の〝祝祭的な〟雰囲気があったことを伝えた。「ボルソナロ氏は意図がなかったのではなく、無能であったがゆえに失敗した」と指摘し、この裁判がブラジルにおけるポピュリズム終焉の節目となる可能性に言及した。
米ニューヨーク・タイムズ紙は、健康問題を理由にボルソナロ氏が裁判に欠席したことを指摘し、関係者の話として、彼が18年の選挙運動中の刺傷事件の影響による激しいしゃっくりに苦しんでいると伝えた。多くの専門家は、今回の裁判を担当するSTF判事5人のうち過半が有罪判決を下すと分析した。
同紙は、ブラジルが64〜85年に軍事独裁政権下にあった歴史を踏まえ、「前大統領や軍関係者に対する刑事裁判は、多くの国民にとって民主主義の勝利と映っている」と指摘した。だが、トランプ氏がボルソナロ支持を表明し、ブラジル政府への圧力を試みたことで両国間の外交危機を引き起こしていることも伝えた。
スペインのエル・パイス紙は、ブラジル人ジャーナリストのエリアネ・ブルン氏による寄稿記事『ブラジルを変える裁判』を掲載。高位軍人が司法に裁かれるのは初めてのことであり、極右勢力の台頭や深刻な格差といった課題が残る中、この裁判の意義は非常に大きいと論じた。さらに「軍の免責の時代が終わった」と評価しながらも、今後の政治的対立は依然厳しいものになると予測した。
アルゼンチンのラ・ナシオン紙は、パウロ・ゴネ検察庁長官の姿勢を「厳罰の要求」として紹介し、ボルソナロ氏とその同盟者が民主主義を破壊し権力を維持しようと陰謀を巡らせたと伝えた。専門家は同裁判を「歴史的」と位置付けており、高位公職者のクーデター未遂による刑事裁判は初めてだとした。軍事独裁時代に制定された恩赦法により、ブラジルでは当時の軍人の人権侵害は司法追及が行われてこなかったことも指摘した。
他方、英ガーディアン紙は、ブラジルが1889年の帝政廃止以降、12回以上のクーデター未遂に見舞われてきた歴史を紹介。最後に成功したクーデターは64年に米国支援を受けた軍部によるもので、21年間に及ぶ軍政時代が始まったことを解説。9月7日の独立記念日にボルソナロ支持者による大規模な抗議集会が予定されており、三権中枢施設周辺の警備が強化されていると報じた。
元駐ブラジル米国大使トーマス・シャノン氏のコメントとして、トランプ氏の支援がボルソナロ氏の逃亡や復権に役立つとの見方は誤りであり、逆にルーラ大統領への支持を強化し、ボルソナロ氏を弱体化させているとの分析を紹介した。