ぶらじる俳壇=160=広瀬芳山撰
グァタパラ 田中独行
予定無く鍬研ぐ朝や春の風
〔生涯を農に生きた作者が、もう引退した後も春の朝を鍬を研ぐという行いを続けている。作者の生き様を春の風が響き合い印象的な句となりました。〕
鳥の巣や妻が通れば口を開け
深しんと音無く明けし余寒かな
サンパウロ 児玉和代
暖かき手に手を預け横断路
〔交通の激しい道を渡る時、添えてくれた手を暖かきと表現しました。手に手を預けがこの句に暖かさを与えています。〕
愛猫の膝へのそりと恋知らず
雨音に許さるる如朝寝かな
イタケーラ 西森ゆりえ
百姓つ気生涯ぬけず花マンガ
〔この状況はよくあると思いますが、季語に花マンガをもって来たことで、急に色々な風景が浮かび上がりました。〕
生涯に趣味無き夫の大朝寝
ノーベル賞女性総理と当国は春
サンパウロ 西谷律子
握手する百才の手のあたたかく
〔百才の目出度さとその手が暖かいことで、その人もこの句も急に生き生きとそしてやさしく感じられる句となりました。〕
恋とげて元のやさしき猫となりにけり
サビア鳴くしきりに呼ばれているような
マナウス 松田正一
イペーの花色彩豊かな路線バス
〔マナウスの情景を詠ったものだと思いますが、様々な色のイペーの花が咲いている風景を詠い、華やかなバス路線が鮮やかに楽しく見えるようです。〕
父の日に膝を付き合い語らいに
父の日にささやかな宴昆布を巻く
マナウス 渋谷雅
父の日や父より大きな靴並ぶ
〔ある小さな風景を描写していろいろな感じを作り出しました。子ども達が父より大きくなったその気持ちが良く出ています。〕
父の日も仕事に勢出す父ありて
若者で日本週間もり上がる
マナウス 橋本美代子
銀漢や河岸の家の灯ひとつ
〔空に大きな天の川、下には大河の岸にポツンと家の灯りがついている。大きな風景の中にある小さな家の暮らしを見事に捉えました。〕
イペー並木新樹は黄より白ピンク
父の日や孫の祝いのグータッチ
リベロン・ピーレス 西川あけみ
外風呂に外便所や花マンガ
〔開拓時代のよくある風景を表現しました。きっと外へ行くたび、マンガの木を眺めていたのでしょう。花マンガという季語がかつての時代を思い起こします。〕
暖かや怠け心を払いのけ
帰る家待つ人のゐて暖かし
マナウス 内ヶ崎留知亜
父の日や家族でかける長電話
〔とても素直な句です。仲の良い家族の風景が目に浮かぶようです。〕
父の日やアルバムの父若かりし
ジャングルの日本週間大盛況
マナウス 野沢須賀子
父の日や病む父癒す子等の居て
〔父の日が季題ですが、この句の主人公は子ども達です。病む父に集まる子ども達の暖かい心が伝わります。〕
父の日や移住を決めてアマゾンへ
咲き満ちて街を彩るイペーの花
サンパウロ 山本郁香
春うらら予定はいっぱい何もせず
〔きっと忙しい人なのでしょう。でも春の気持よい日は、何もしないという思い切ったやり方もまた気持ちいいものです。〕
こでまりや玉をころがし春来ぬ
アマゾンの一発千金樹海焼く
リベロン・ピーレス 山城みどり
いつ来ても父いる実家あたたかし
〔お父さんいるというそのことだけで良い気持ちになれるということは、きっと素晴らしいお父さんなのでしょう。その事により、娘の良さもよく出ています。〕
めだつ事きらいと言ふて花マンガ
あたたかや句友仲間の笑顔見て
マナウス 丸岡すみ子
父の日や父の面影映す孫
〔孫に顔が似るというのはよく聞きますが、これは曽孫のことでしょう。きっとお父さんのことをよく見ていた人が書ける句だと思います。〕
星も皆唯一無二や大銀河
父の日や夫と息子をねぎらえり
マナウス 朝倉晴美
父帰国イペーの花の吹雪たる
〔お父さんが帰る日、別れを惜しむかのようにイペーの花が沢山散ったのでしょう。作者の気持ちとイペーの花の風情が見事に重なりました。〕
父の日は嫌い泣くから父は医者
ネグロ川銀河のもとで眠りましょう
サンパウロ 太田英夫
大口を開けたるままの大朝寝
労働も人事なれる我朝寝
大朝寝ねぼけ眼で今何時
ジャカレイ 三好信子
春時雨かべにもたれて背伸する
通り雨母の爪切り春の虹
春彼岸ツゲの阿弥陀に手を合わせ
サンパウロ 坂野不二子
亡き人と思ひておれば春の雨
さよならを幾度も重ね春惜しむ
終活は何から始む春の空
マナウス 森浩美
ひとときの並木道なりイペー咲く
父の日のスマホに届く孫の顔
父の日に送りしネクタイ我が首に
マナウス 宿利嵐舟
散り敷けるイペーの花道夕散歩
逝きし友渡り終えしや天の川
影二つ一つになりて良夜かな








