ぶらじる歌壇=50=小濃芳子撰
サンパウロ 梅崎嘉明
時々に新聞に載る毛利氏の文章はたえずつまされて読む
同人誌に私のことを好意もて書きてくれたり有難きかな
褒められてメールで感謝のべたるにまた懇切な言葉たまわる
昨年の忘年会には出会いしが耳遠くして懇談ならず
何気なく交わりていし毛利氏より思いもよらぬ賀状戴く
サンパウロ 橋本孝子
けんかする相手がいるのは羨まし寡婦なる友ら口々に言ふ
コーラスの舞台に立ちて緊張す笑顔で歌えと先生言われるが
サンパウロ 山岡秋雄
午年の初コーヒーを君と飲む十数年の友情の味
祖母ちゃんがゆっくり上る階段を孫らしき児が駈け上りゆく
日系は長寿者なるかわが友に卒寿者二人百寿者一人
太陽光ビタミンDを照射すと聞きて禿頭さらしつつゆく
歩道石の隙間に生えし雑草や育ち花咲き実をむすびたり
夏嵐に吹き落とされし鳥の巣に小鳥は見えず胸撫でおろしたり
認知症の兆しの見ゆるわが友のその妻優し貴方あなたと
急がねば急な階段ものとせず膝も痛まず上り切りたり
人生のなすべき事を遂げしごと高齢の人犬と散歩す
往年の車体と色のカブト虫今なお走る聖市の街路
サンパウロ 木村衛
戦争と戦後の狭間でもだえきし我の青春飢えと迷いの
山登り日本アルプス遥か見てやるぞと叫んだあれはまぼろし
その昔難所といわれた和田峠トンネル通りて束の間に過ぐ
居酒屋で物慣れたごと座れどもどこから来たと化けの皮剝げる
母の国安い日本酒がぶ呑みし憂さ晴らしたる時代のはぐれ
異世界の人と混じりて旅をする一期一会の会話身に沁む
サンジョゼ・ドス・カンポス 藤島一雄
おだやかな風で樹木を揺らめきて秋の兆しを木漏れ日告げる
三月は高校センバツ球児らのはつらつプレーで列島は沸く
花見客桜木の下美酒に酔うせつなでも良し労苦忘れて
安青錦若冠二十一才で綱の座奪取へ果敢に挑む
上のひ孫十五で高校一年生成長見るが老いの楽しみ
動乱の昭和一桁しんがりのわれも老い果て終盤章に
国会の質疑にきぜんと答弁す高市総理はやまとなでしこ
朝まだき戸外の冷気で深呼吸今日一日の無事念じつつ
家に来るお手伝いさんラジオ派でテレビを持たない奇妙な夫婦
隣接のパダリヤ主人コリンチアーノごていねいに犬まで白黒
在日の次女より届きぬ新刊書印刷の匂いかぎて読みだす
朝夕は菜園いじり日中は激暑を避けて読書に浸る
短歌俳句二万流の人もいる才能あふれる人すばらしき
負の遺産まだに引きずる日本の外圧対処の道程厳し
サンパウロ 安中攻
手のひらをそっと撫でつつ想うこと共に過ごせし我人生を
笑われし太い指だと妻や子に夕陽に掲げそっと見てみる
擦れ違い其一瞬が左右する人の運命のきまりなのやら
後悔と云いたくはない過去ありて戻らぬものを想いふけおり
今ここに想いふければ折々の只なつかしさ偲びあふるる
淋しさを大きく息すいはいてみる昔の面影消えし切なき
待つ人はもう来ないかとふとよぎる想いをつなぎ午後の日は過ぐ
旅愁や無言のままの過の路に沿って流れる川は秋なり
グワルーリョス 長井エミ子
立てし指からまる風も秋の色夢でありたし一生と思う
手紙にてお話ししましよ我友よ秋深々と限界集落
きのこ狩り天延び延びと秋の空今もありなんあの山あの頃
高齢は何の慰めにもならず真紅のバラの遠きはなやぎ
あれこれと思考打ち切りねむらむとげに一夜とう長き物かな
サンパウロ 寺田雪恵
七階の窓のガラスに音たてり小さくどんな小さな虫かと思うも
日本語を話せる人を探しつつ歩めり渡伯してすぐ孤独味わう
母連れてキロンボの湯をたのしみて野径ゆったりと歩みしは二十年前
雨上がり収穫の時近づきて米大豆ミーリヨの値上げ思いぬ
◆ 名歌から学ぶ短歌の真髄 ◆
短歌史に残る有名歌人の歌から心髄を学ぶコーナーです。良い歌を沢山読み触れる事でよりよい作歌に繋がるはず。
かくまでも黒く悲しき色やある
わが思う人の春のまなざし
北原白秋
春の宵、街は一日の活動を収めぼんやりとかすんで見えるものでした。
昔の夜の始まりでした。しかし、時は移り社会は大変化を遂げました。
すべての出来事を数字で表し、さらに、一秒を細かく分けて表しております。
長い人生の中に、ひととき楽しい思いを過ごす時があり、それは数字では表せないものなのです。
激しい思いは、また、苦しい思いに通じ悲しむのです。
その色は黒くふかいものです。
作者は、輝く瞳と悩む瞳を受けてゆく道に迷うのです。
他に、どくだみの花の匂いを思うとき
青みて迫る君のまなざし
の作品もあり、ひとみに込める心の動きを大切にしてきました。
見えない心ですから、読者には感じるものがたくさんあります。
沢山の人の中にあって、二人にだけ通じる瞳の嬉しさ、若いときの思い出として活きて行くことでしょう。
歌は不思議なもの、作者は生きていなくても歌はのこります。
その時、感じたものを歌に作るのはとてもむずかしいことです。
作者は、明治の時代にローマン主義者として活躍した素晴らしい人物です。
みんなに愛される歌として、大切に読み続けましょう。
【備考】北原 白秋(きたはら はくしゅう)
明治18年福岡県山門郡沖端村うまれ
本名:降吉
早稲田大学に入学
明星、スバルに、詩、短歌を発表
詩集「邪宗門」、思い出歌集「桐の花」により、浪漫主義の新風を築き、以後、多くの詩人、歌人に影響を与える
昭和十年、多摩を創刊
歌集 雲母集、白南風、黒檜など。
昭和 17年没
読者文芸
◆ブラジリア俳句会(3月)
鮮やかに首相答弁女性の日 山根敦枝
南十字星日系移民に夢あたへ 渡辺隆夫
紅の羽子その美に見惚るパイネイラ 浜田献
朝寒や起きて動けばすぐ汗が 長谷部蜻蛉子
女性の日負けるな初の総理大臣 田中勝子
女性の日ガラスの天井突き抜けよ 荒木皐月








