《記者コラム》中ロ首脳会談直後にルーラ訪中=不穏なBRICS界隈の活性化
一触即発のウクライナ情勢の中で中ロ首脳会談
習近平中国国家主席は20~22日にロシアを国賓として正式訪問し、プーチン大統領と会談すると先週発表された。中国外務省は、この訪問は「多国間主義を実践し、世界の統治を改善し、世界の発展と進歩に貢献する」ことを目的とした「平和のための訪問」だと述べている。〝平和〟を強調するウラには何が・・・。
両国の関係強化を図り、ウクライナ情勢に関する意見を交わすという。ウクライナ侵攻が丸1年を迎えたこの時期に〝国賓〟としてロシアを訪問すること自体、意味することは大きい。米国には、中国がロシアへの兵器供与を検討しているとの情報があり、神経をとがらせている最中だ。
3月14日には米軍のドローンが黒海上空でロシア軍戦闘機と接触して「飛行不能」になったため、米軍は損傷したドローンを墜落させたと発表している。これを受け、米国はそれまで反対していたNATOからの戦闘機供与を肯定した。
その直後の16日、ポーランドは旧ソ連製の戦闘機4機を数日中にウクライナに供与すると発表した。ウクライナ侵攻開始後にNATO加盟国がウクライナに戦闘機を供与するのは初めてだ。
つまり、そのような一触即発の状態の20日から習近平氏はプーチン氏と会談し、そのすぐ後にルーラ氏は26日から31日まで北京と上海を公式訪問して会談するというタイミングだ。
「ルーラは〝悪党〟を中国に連れて行くのか?」
18日付G1サイト記事(8)によれば、ブラジルからはルーラ氏を団長に史上最大規模の訪問団が訪中する。大臣や州知事に加えて約240人の大企業代表、リラ下院議長、パシャッコ上院議長らを含めて連邦議員を39人も連れて行くと報じられている。うち農業ビジネス代表の88人の中に、あのバチスタ兄弟が入っていることで波紋が広がっている。
ラヴァ・ジャット作戦の一環として2017年5月17日、バチスタ兄弟らが、テメル大統領との会話の隠し録音データと共に、同大統領の収賄、司法妨害、犯罪組織形成疑惑に関する情報を検察に提供していた事が発覚し、同社株価が大暴落して「JBSショック」と呼ばれ、それに関する司法取引成立した。
いわばラヴァ・ジャット作戦で司法取引して刑罰を逃れた人物であり、同作戦によって拘留されたルーラ大統領とすれば「政治家を司法に売った企業家」だ。
18日付ジアリオ・ド・ポデル紙(9)は、本人もラヴァ・ジャット作戦で捜査対象になって苦しんだあのエドアルド・クーニャ元下院議長が、次のような批判コメントをSNSに投稿したと報じた。
いわく《ルーラはラヴァ・ジャット作戦で司法取引した〝悪党〟を中国に連れて行くのか? もしルーラが、彼らはウソをついていると思うなら、連れて行けないはずだ。もし本当のことを証言したと思うなら、もっと酷いわけで当然連れて行けない。この種の市民とのなれ合いは禁物だ》とまで批判している。
史上最大規模の訪問団、両院議長や企業代表も
3月12日付ポデル360サイト記事(2)も《ルーラはこの訪問を最重要視するつもりだ。おそらく今年で一番重要な外国訪問になる。同行するビジネスマンや連邦議員の数がそれを証明する》と報じている。
訪問団の内訳として、上院議員からはMDB重鎮のレナン・カリェイロス(MDB)、下院議員からはカルロス・ザラッティーニ(PT)、ダニエル・アルメイダ(PCdoB)、伯中連邦議員連盟会長兼BRICS議連会長のファウスト・ピナート(PP)、グーテンベルグ・ライス(MDB)、ルイス・オヴァンド(PP)、PTの下院リーダーのゼカ・ディルセウ(PT)の名前が挙がっている。
伯中連邦議員連盟会長のピナート下議は、ボルソナロ政権時代から同議連会長を任じており、21年5月にボルソナロ大統領が「中国の実験室からコロナウイルスが漏れた」と演説でふれた際も、大統領に対し「深刻な精神疾患」「フィクションと現実を混同させている」と痛烈批判したことで知られている。
同記事にある2022年の州ごとの国別輸出割合では、中国は全27連邦自治体の中で半分以上の14州で17%以上を記録したと報じられている。州別にみると1位はトカンチンス州の54・1%、2位はパラー州の50・6%、3位はゴイアス州の47・8%、4位はピアウイ州の47・0%、5位はマット・グロッソ州の34・7%、6位はリオ州の32・6%、7位はミナス州32・5%などと続き、サンパウロ州は14位で17・0%。
ブラジル中国ビジネス協議会(ルイス・アウグスト・デ・カストロ・ネヴェス会長)の発表(4)によれば、27連邦自治体の中で19州にとって中国が最大の輸出国になっている。
肩すかしだったルーラの米国訪問

スプートニクサイト17日付(6)は《バイデンとは会ったが、ルーラは有利な取引きができず、ホワイトハウスで冷たい歓迎を受けた。中国側はそれを逆手にとって、ビジネスを視野に入れて堂々と歓迎するだろう。ブラジル勢と会う前に、習主席がロシアを訪問することで、ルーラ訪問の地政学的な温度が上昇している》と報じた。
《米国でルーラ大統領は、ディナー、ランチ、レセプションでも何ら表彰されなかった。共同記者会見もなかった。特に期待されていたアマゾン基金への資金提供の発表もなかった。中国はブラジルと米国の〝乾いた関係〟を利用しようとしている》と書く。
プーチン大統領との会談を経て、習主席はウクライナ紛争の終結を促進するために、ルーラが提唱する「平和クラブ」創設という考えをより推し進める可能性があるとの報道もある。
フォーリャ紙11日付《ルーラは中国訪問への期待を倍増、米国に「ポケットに手を入れる」よう圧力かける》(3)でも、ルーラが訪中に力を入れる理由としては、2月の米国訪問がまったく期待外れだったことが挙げられている。
そもそも中国には4日間も滞在するのに対し、米国ではわずか1日だった。確かにバイデン米国大統領からは名誉と敬意をもってルーラは待遇された。それは南米地域覇権国という地政学的に重要な立場であることの表れだ。だが期待したほどのお土産はなかった。
協定の調印や大型投資の約束など、両国間の効果的なパートナーシップに向けた進展はほぼ見られなかった。特にアマゾン基金への期待された寄付は実現せず、提案された金額5千万米ドル(約2億6千万レアル)だけでPT政権を苛立たせと報じられている。
ルーラは今回の訪中で次のような目的を果たすつもりだという。一つ目は、ボルソナロ政権中に政治的な距離ができてしまったアジアの巨人との関係を再構築すること。中国は主要な貿易相手国であり、1250億レアルの取引を維持している。中国との関係を緊密化させることで、米国側に更なる投資、貿易、協力のパートナーシップを結ばせるような刺激にしたいと考えている。
もう一つの目的として同フォーリャ紙は《アメリカがポケットに手を入れるようにすること》と報じている。これは〝棍棒外交〟と言われる様な、米国が拳を振り上げて力づく(武力をちらつかせて)で他国を従わせるやり方ではなく、対中関係で「ポケットに手を入れさせる」(棍棒をしまう)方向にもっていきたいようだ。
米国と中国という二つの大国は現在、広範な地政学的論争の主役となっている。ラテンアメリカなどの地域で中国の影響力が高まっていることはその典型だ。
今回の訪問では伯中当局のハイレベル会合に加えて、ブラジル中国ビジネス評議会が主催するセミナーがこの期間に予定されている。中国訪問が持つビジネス交渉の場は、ワシントン訪問時とは対照的だ。米国でルーラはビジネス会合を持っておらず、バイデンに加えて、民主党の最左翼や組合関係と会合を持っただけだった。

衛星打ち上げ、電気自動車、メディア協力促進も
エスタード紙18日付(5)によれば、《少なくとも20の二国間協力協定などに署名する予定。合意の中には、アマゾンなどの森林伐採を監視するための画質向上を可能にする、新しい中国とブラジルの衛星建設と軌道打ち上げを規定ものもある》と報じている。
同紙は《中国とブラジルのメディア組織間のテレビ共同制作を促進するために、さまざまなモダリティでのスポーツの分野での協力、および文化的な協力》に関する合意項目があるのを発見したと報じた。伯中メディアが今後より緊密に協調する可能性がある。
さらに《国立経済社会開発銀行(BNDES)に関連する覚書のリストには、アグリビジネス製品に関連する、環境、教育、科学技術、金融、衛生および植物検疫プロトコルを視野に入れた与信枠も含まれている》とも。
貿易促進・投資・農業省のダニエル・フェルナンデス長官は《私たちはすでに、約240人の経済人を訪問団として登録している。記録的な数字だ。アグリビジネスだけでも約90人の代表者がいる。テクノロジー、イノベーション、建設など多様なセクターから代表が集まっている。彼らは最終日に開催される約400~500人参加のビジネスイベントに参加する予定》と発言した。
エドゥアルド・サボイア駐日大使は同エスタード紙の記事中で、28日に北京で行われる首脳会会談は《ウクライナでの戦争について、ブラジルと中国が世界に向けて話す瞬間でもある》と位置づけ、現在起草中の共同声明文は約50段落の長さになると予告している。
UOL17日付ジャミル・チャドのコラム(7)では二国間協定のかなり具体的な内容が書かれている。《240人以上が参加するこの訪問は、23年におけるブラジル新政府にとって最も重要な外国訪問の一つになる》と位置づけ、撤退したフォード工場跡地への中国電気自動車メーカーBYD進出発表を訪問の成果の目玉とし、5G技術インフラ機器の供給に関して、今回ファーウェイ工場訪問や上海で同社幹部と顔を合わせることでブラジル投資の新たな扉を開こうする可能性も報じられている。
加えて、ブラジルを中国人観光客の優先目的地リストに含ませることも、ルーラ訪問の重要課題の一つと報じた。

高まるBRICSなどサウスグローバルの影響力
13日付スプートニク・ブラジルサイト《体制転換の兆候としてのBRICSの影響力の高まり》(10)という記事の中で、《ここ数年でBRICS参加に関心を示した国の数が大幅に増加した。その中にはトルコ、イラン、メキシコ、インドネシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルゼンチン、エジプト、および他のアフリカ諸国などの重要な地域大国の存在がある。
21年から22年の間に、BRICSの新開発銀行(NBD)に4カ国が新しく参加したことは記憶に新しい。その結果、BRICSはメンバーシップの新しい基準を策定する可能性をすでに真剣に検討しており、国際舞台での影響力をさらに拡大している》と書く。
NBDサイト(11)にある通り、NBDには創立5カ国に加えて、バングラデシュ、アラブ首長国連邦が21年に正式加盟し、エジプトとウルグアイの加盟がNDB理事会によってすでに承認ずみで、いずれ正式加盟すると発表されている。
BRICSを中心としたサウスグローバル勢(世界経済格差という南北問題の「南」側の国々)の声が徐々に大きくなる中、ロシアや中国に引きずられる形で、ブラジルも今週からは「世界情勢を左右するキープレーヤー(鍵を握る人物)の一人」として新しい一歩を刻みそうだ。(深)

(2)https://www.poder360.com.br/governo/viagem-de-lula-a-china-devera-ter-ao-menos-8-congressistas/