《記者コラム》W杯開催から10年=まだ完成しないサンパウロ市の「巨像」

12日付フォーリャ紙で面白い記事を見つけた。それは、ブラジルでサッカーW杯が開催されてから10年が経過したことを報じたものなのだが、「W杯に本来間に合うように作られたはずのインフラでまだ完成していないものが全国で数多く残っている」との指摘がなされていた。
記事ではその一例としてブラジリアでの軽量鉄道(VLT)などを挙げたが、予想通り、サンパウロ市地下鉄17号モノレール線も言及されていた。
17号線は当初、W杯の会場に市南西部のモルンビ・スタジアムを使用する計画があったため、国内便を多く扱う市南部のコンゴーニャス空港と同スタジアムを結ぶため、建設を始めた。だが結局、モルンビ・スタジアムの会場使用はなくなり、建設ムードは急速にトーンダウン。着工のペースも落ちてしまった。その後、建設企業がラヴァ・ジャット作戦に関与していたことなどで着工ペースはさらに遅れた。
そうこうしているうちに、W杯が終わって10年が経った。建設予定の沿線にはモノレールを支える巨像のような支柱ばかりが少しずつ増えている。サンパウロ市には何にも使われない巨像がただそびえ立つという、奇妙な光景だけが生まれてしまった。
まるでイースター島のモアイ像のように聳え立つコンクリートの支柱の数々。その姿はいまや市南部を東西に真横に走るバンデイランテス大通りの半ば名物になっており、その下には路上生活者などが生活するようになっている。
図らずも市民の記憶に強烈に残る存在となってしまっている17号線だが、タルシジオ・デ・フレイタスサンパウロ州知事の話によると、完成は2026年の予定だという。
度重なる開通延期を体験した身としては眉唾な話ではあるが、もしタルシジオ氏が噂されている通りに2026年に本気で大統領選の出馬を目指すならば、2018年に大統領選に出馬した当時のジェラルド・アルキミン知事が地下鉄5号線の全駅開通を選挙に間に合わせたようなことをするかもしれない。
17号線もいざ完成してみたら、市民に予想以上に喜ばれる可能性はある。
W杯の頃、「こんなところにスタジアムを作って用途はあるのか」と批判されたリオ・グランデ・ド・ノルチ州ナタル、アマゾナス州マナウス、マット・グロッソ州クイアバーでは、その後、地元のクラブが強くなり全国選手権1部、2部に上がってくるなど、それなりの投資効果も出てきている。
17号線も完成によって何らかのよい効果が生まれることを期待したい。(陽)