聴覚障害の犬と心通わす=ろう者飼い主が手話教え

言葉が通じず、音が聞こえなくとも、通じ合える心がある――サンパウロ州の保護施設で暮らしていた聴覚障害を持つオス犬が、同じ障害を持つ女性に引き取られ、手話を通じて新たな生活を始めている。この様子を収めた投稿がSNS上で広く拡散され、関連動画の再生回数は3千万回を超えるなど大きな反響を呼んでいる。21日付G1(1)が報じた。
犬の名は「ゾキ」。もともとは「コットン」という名で、サントス市にある動物保護施設「エリゼウ研究所」の保護下に置かれていた。同施設はSNSを通じて譲渡希望者を募るとともに、犬の日常を発信していたことから徐々に注目を集めた。
その後、現在の飼い主であるマイヤラ・バチスタ・マンゴリンさん(33歳)と、その夫であるジェアン・カルロス・デ・オリヴェイラさんのもとに引き取られた。
銀行員のマイヤラさんは、自身も聴覚に障害を抱えている。親友からの情報提供をきっかけにSNSでゾキの存在を知り、一瞬で心を奪われたという。夫妻はすぐに施設と連絡を取り、13日、自宅のあるサンパウロ市からサントス市の譲渡会場に赴き、正式にゾキを引き取った。
マイヤラさんは「私たち夫妻にとり、初めての里親となる経験でしたが、迷いはなかったです。責任を伴いますが、それ以上の大きな愛情を持っています」と話す。現在、夫妻はゾキの新たな生活に寄り添いながら手話の訓練を行っている。すでに「座れ」「伏せ」「待て」といった基本的なサインを理解し始めており、「急がず、愛情と忍耐を持って教えているところです」と話した。
エリゼウ研究所の代表レイラ・アブレウ氏によれば、ゾキは4日に施設へ持ち込まれた。犬を連れてきた女性は「拾った」と述べたが、スタッフはすぐに遺棄の可能性を疑ったという。アブレウ氏は「犬の様子から、彼女が飼い主であることは明白でした。ゾキは聴覚障害があるため、手放したかったのだと思います」と振り返る。
動物行動学の専門家でもある同氏は、白い被毛と左右で異なる目の色を持つゾキの外見から、聴覚障害の疑いを持ったという。このタイプの犬や猫には、聴覚に問題を抱えている個体が少なくないといい、その後の一連の検査により、ゾキの聴覚障害が確認された。「おそらく、前の飼い主が彼を手放した理由もそこにあるのでしょう。音に反応しないために、飼い主との関係が築けなかったのかもしれません」と同氏は推測した。
同施設がゾキの譲渡先を募る投稿を行った後、その愛らしい外見も相まって、譲渡希望者が後を絶たなかった。だが、アブレウ氏は一貫して、「世話に必要な忍耐と理解が備わっているかどうか」を重視して選定を行ったという。
当初は、聴覚に障害のある別の希望者が選定されていたが、ゾキが生後6〜8カ月とまだ幼く、手厚いケアが必要であることを踏まえ、より多くの時間を割くことができると判断したマイヤラさんとジェアンさん夫妻が、最終的な譲渡先に選ばれた。譲渡後も、アブレウ氏はSNSを通じてゾキの成長を見守り続けており、特に、手話を用いた訓練の進捗には深い感銘を受けているという。
同氏は「私たちが本当に望んでいるのは、動物に反応が見られない時、それを単なる性格の問題と決めつけるのではなく、病気や貧血、怪我の有無を確認し、その上で聴覚の検査を行ってほしいということなのです」と訴える。
同氏は「行動学の専門課程を修了し、さまざまなケースに対応してきたが、ここまで特別な事例は初めてだった」と述べ、こうした活動を通じて一人でも多くの人に動物福祉への関心を持ってもらいたいと締めくくった。