ブラジル人男性の陰茎増大術増加=誇りと願望が生むリスクと代償

「3回の注入施術でペニスを失いかけた」――近年、ブラジルでは、見た目の改善や自尊心向上を目的に「陰茎増大術」を受ける男性が増加している。だが、これらの手術には重大なリスクが伴い、虚偽の宣伝や安全性に疑問のある施術による深刻な合併症も報告されている。施術の失敗で陰茎を失いかけた例も存在し、専門家は慎重な判断と信頼できる情報の収集を呼びかけていると20日付BBCブラジル(1)が報じた。
「私がペニスを失いかけた原因は、3回にわたるPMMA(アクリル樹脂)注入にある」と語るのは、首都ブラジリア在住のジョルジ氏(仮名)だ。彼は05年、陰茎増大を謳う広告に惹かれ、サンパウロ市の人目につかないクリニックで、妻に内緒でPMMAを注入。施術を担当した人物が医師であるかどうかは確認しなかったという。
当初は満足していたが、10年後に再施術を決意。地元のクリニックで2回目の注入施術を受け、さらに18年には泌尿器科医のもとで3回目の施術を行った。
だが、術後およそ2年が経過した頃から陰部に慢性的な炎症が現れ、陰嚢(いんのう)は大きく腫れあがり、強い痛みを伴うようになった。医師はステロイド系の抗炎症薬を陰嚢内に直接注射するなどの対応をとったが、症状は徐々に悪化。ジョルジ氏の体は異物であるPMMAを排除しようとする免疫反応により、皮膚に潰瘍ができるようになったという。
陰茎を失う恐れがあると判断され、同氏は泌尿器科医による複数回の外科手術を決断。24年に陰嚢内のPMMA除去手術、25年4月には陰茎再建手術が実施された。
ブラジル形成外科医学会所属のフラヴィオ・レゼンデ医師は、陰茎増大を謳う無数の広告は、特にSNSを通じて急速に拡散していると指摘。現在行われている主な施術法を「外科手術」と「注入」に大別する。
外科手術には、陰茎を支える靭帯の切断や骨盤部の脂肪吸引などがあり、特に肥満などによって陰茎が体内に「埋没」している症例に有効とされる。見た目の改善に加え、衛生面の向上や陰茎がんの予防にもつながるという。
一方、注入による方法では、主にヒアルロン酸が使用される。唇や額の整形などにも広く用いられる物質で、施術後数カ月から1〜2年で体内に吸収される。これに対しPMMAは恒久的に残る性質を持ち、重篤な合併症を引き起こすリスクが高いとされている。
ブラジル泌尿器科学会のフェルナンド・ファシオ医師は「ヒアルロン酸は水分を引き寄せる性質があり、自然な陰茎の質感に近い膨らみを実現できる」と説明。ヒアルロン酸を中和する薬剤も存在し、安全性が高いという。
陰嚢へのボトックス注射(俗称「エスクロトックス(escrotox)」)も一部で行われているが、科学的根拠は乏しいとされる。
陰茎増大術の適応は限定的であり、特に「小陰茎症」と呼ばれる通常の平均値を大きく下回る陰茎サイズの男性、あるいは肥満で陰茎が埋もれている男性に推奨される。成人男性の陰茎平均長は、萎縮時で約8・5〜9・5センチ、勃起時で13〜14センチ。これに対し、一般的なサイズ範囲内でも施術を希望する男性もいるが、専門家は患者の精神的自律性を確認し、身体醜形障害(BDD)の可能性を見極める必要性を説く。
精神科医のカルミタ・アビド医師は、身体醜形障害に罹患した患者が陰茎サイズや形状に過度の不満を抱き、手術や注入を繰り返すケースが多いと指摘。これにより陰茎が損傷され、深刻な合併症を招く。「陰茎は男性にとって権力や力強さの象徴であり、その象徴的価値は非常に大きい」と強調。性器を巡る羞恥心やタブーも根強く、患者は匿名性の高い相談方法を好む傾向があるという。
施術によるサイズ変化は限定的であり、ヒアルロン酸注入では太さが約1・5〜2センチ増す程度が一般的だ。長さの増加は期待できず、見た目の変化に留まる。注入の層や深さはわずか数ミリで、誤った個所への注入は重大な合併症を引き起こす恐れがあるため、施術には顕密な技術が求められる。
最悪のケースは血管内への誤注入で、組織壊死や血栓塞栓症を招き、生命の危険に及ぶ。陰嚢への注射では、精索(精巣から陰嚢へ伸びる管状の部分)の損傷による生殖機能やホルモン機能障害も懸念される。
ブラジルでは今後も美容目的の陰茎増大術が拡大すると予想されているが、専門家は虚偽広告や技術の未熟な施術に伴うリスクの大きさを改めて強調した。