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GG賞2冠=ザ・シークレット・エージェントの裏側=軍政期の空気感を緻密に再構築

2026年1月13日

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米ロサンゼルスで11日に開かれた第ゴールデン・グローブ賞授賞式で、ブラジル映画が2冠という歴史的な成果を収めた。クレーベル・メンドンサ・フィーリョ監督の『ザ・シークレット・エージェント(O AGENTE SECRETO)』が非英語映画賞(旧外国語映画賞)を受賞し、主演のヴァギネル・モウラがドラマ部門最優秀男優賞に輝いた。ブラジル映画史において特筆すべき快挙といえる。

本作は、1977年の軍事独裁政権下のブラジルを舞台に、当時の社会と空気感を緻密に再構築した作品だ。壮大なスケールと細部に至るまでの徹底した時代考証、そして圧倒的なリアリズムが高く評価されている。制作過程や独自の映像表現については、8日付のG1など(1)(2)ブラジル主要メディアが詳しく報じている。

撮影では、当時実在した政治的・社会的背景の再現に力が注がれた。ある場面では約200人のエキストラと169台のビンテージ車両が動員され、そのうち41台はフォルクスワーゲン・ビートルだった。車両はいずれも全国のコレクターから借り受けられたという。

ロケ地は北東部ペルナンブコ州レシフェを中心に、サンパウロ、ブラジリアなど計30カ所に及ぶ。街並みや建築物、走る車に至るまで、当時の風景を忠実に再現することに細心の注意が払われた。

制作陣は、都市の景観を単なる背景としてではなく、登場人物の一部として位置づけている。その象徴的存在が、レシフェを代表する建築物「サンルイス映画館」だ。物語の重要な局面で登場し、物語の進行に欠かせない役割を果たす。

万華鏡1−3
サンルイス映画館(Foto: Hilary Shirley Carneiro dos Santos, via Wikimedia Commons)

サンルイス映画館は1952年に開館し、2008年にペルナンブコ州政府によって歴史的建造物に指定された。2024年に改装を経て再開館した同館は、本作の中で人々が交わり、記憶と時間を超えた瞬間を共有する場として描かれる。メンドンサ監督はここを「レシフェの過去への入り口」と捉え、その歴史的価値を強調している。

館内は豪華で印象的な装飾が施され、観客を圧倒する空間だ。金色のフレームを持つガラス扉や、スクリーンを囲む花柄のステンドグラスは、上映前に灯りが入ると異世界へと誘うような効果を生む。こうした装飾が、映画全体の雰囲気をより際立たせている。

映像面でも強いこだわりが見られる。撮影には「アレクサ35カメラ」とアナモルフィックレンズが用いられ、独特の粒子感と広がりのある画面が生み出された。機材はロサンゼルスのパナビジョンから提供され、1970年代のブラジルという時代背景を視覚的に説得力ある形で再現している。

制作にあたっては、地元の協力も大きな支えとなった。ペルナンブコ州政府やレシフェ市、ペルナンブコ連邦大学(UFPE)が撮影を全面的に支援し、市内の主要道路封鎖や歴史的建造物でのロケを可能にした。これにより、当時の空気感を忠実に映像化することができた。

プロデューサーのマリアナ・ジャコブ氏は「スタジオでセットを組むのではなく、実際の都市で撮影することを選んだ。レシフェの街がどのように生きていたのかを観客に伝えたかった」と語る。街そのものを語り手とする姿勢が、作品に独自の厚みを与えている。

公開からわずか2カ月で国内観客数は100万人を超え、これまでに48の映画賞を受賞した。なかでもカンヌ国際映画祭での最優秀監督賞、最優秀男優賞の受賞は大きな話題を呼んだ。時代背景と社会問題に深く根ざしたテーマ性が、観客と批評家双方から高く評価されている。

さらに、4日に米国で開かれたクリティック・チョイス・アワードでは、ブラジル映画として初となる最優秀外国映画賞を受賞した。国際舞台におけるブラジル映画の存在感を一段と高める出来事といえる。

制作に関わった多くの人々にとって、本作は単なる映画制作を超えた体験となった。主演のヴァギネル・モウラは役作りについて、「当時の社会情勢を反映させるには、リアルな感情と記憶を再現する必要があった」と振り返る。その演技からは、時代への深い洞察がにじむ。

本作は、出演者、スタッフ、そして地域社会が一体となって生み出された作品だ。その積み重ねが作品に重厚な奥行きとリアル感を与え、今回の成功につながった。ブラジル映画界にとって、この成果は一つの受賞にとどまらず、国際的評価をさらに押し広げる重要な節目となりそうだ。


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