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トランプがPIXに通商圧力=米企業保護とドル覇権懸念で

2025年7月18日

「Pixは我々のもの」米政府への牽制を込めたルーラ政権のSNS発信(Foto: X @govbr)

 ブラジル中銀の即時決済システム「PIX」が、トランプ米政権の通商調査の標的となっている。PIXは個人は手数料無料、企業も低コストで利用可能なため、ブラジル国内で米国大手クレジットカード会社やビッグテック企業にとり強力な競争相手となっている。BRICS諸国間での国際決済利用がドル覇権を揺るがす可能性も指摘されており、米国の自国産業保護とデジタル決済を巡る地政学的な対立が調査の背景にあると17日付G1(1)が報じた。

 米通商代表部(USTR)は15日付の通達文書で、ブラジル政府主導の電子決済サービスに「不公正な取引慣行の疑い」を示した。PIX名こそ明示されていないものの、事実上これが標的で、専門家は米国側が大手カード会社やビッグテックを保護する意図があると分析している。

 PIXは18年にブラジル中銀が導入し、リアルタイムかつ低コストな送金が可能なことから急速に普及し、24年には約26兆4千億レの取引高を記録した。VisaやMastercardなどは競争環境の悪化を懸念している。

 ESPMのジョルジ・フェレイラ教授は「米国では即時送金に手数料を課せるが、ブラジルではPIX統合が義務化され、収益減は避けられない」と指摘。この規制環境は、決済手数料を主要な収益源とするハイテク企業に、ビジネスモデルの再構築を迫っている。Googleのように独自の決済サービスを提供するビッグテック企業にも影響を及ぼしている。

 さらに「PIXインターナショナル」本格導入への取り組みが進む中、BRICS諸国間でドルに代わる新決済手段として注目が集まる。フレンテ・コレトーラのエコノミスト、ファブリジオ・ヴェローニ氏は「BRICS内でのPIX利用拡大はドルの優位性を揺るがしかねず、米国には不快な動きだとみなされる」と説明した。フェレイラ教授は「PIX国際版はSWIFTに直接競合し、米国の金融制裁や影響力低下をもたらしかねない」と分析。

 一方、RegLabのペドロ・エンリケ・ラモス氏は、PIXが公共主導でありながら利用者に支持される成功例で、「国際社会のモデルとなる」と評価。多くの国が導入を検討している。

 米国はこれまでにもインド、中国、インドネシアなどの決済システムに圧力をかけており、PIXへの調査も自国企業保護の一環とみられている。米国にはZelleやFedNowといった即時決済システムがあるが、いずれも利用者や加盟銀行の広がりは限定的だ。

 電子決済をめぐる法的・政治的対立も絡み、GoogleやMetaはブラジル規制に反発し、コンテンツ規制や責任の所在を巡ってブラジル最高裁と対立。WhatsAppの決済機能停止もその一例で、ブラジル中銀と公正取引委員会が競争制限や安全性への懸念を理由に一時的な停止を命じた。

 この動きに対してブラジル政府も反応し、公式SNS上で「PIXは我々のもの」と投稿。(2)PIXを「手数料なし、迅速、公的技術による国家主導のデジタル主権」と強調し、通商調査を主導するトランプ氏を暗に批判。今後もPIXの国際的意義と主権性を前面に押し出して対外的主張を強める構えだ。


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