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【11日の市況・短報】Ibovespa史上初の14万3000ポイント台を突破/市場を揺さぶるボルソナロ元大統領への懲役27年判決/米国・ブラジル関係が新たな緊張局面を迎える可能性が浮上

2025年9月12日

ブラジル市場、記録更新の裏に潜む構造的リスク

利下げ観測と政治動揺のはざまで

 サンパウロ証券取引所の主要株価指数 Ibovespa が史上初の14万3000ポイント台を突破した。米国の利下げ観測が追い風となり、資金流入期待が一気に強まった形だ。だが、この記録更新は「堅調な経済基盤」を示すものではなく、むしろグローバル流動性の波に強く依存した脆弱な構造を浮き彫りにしている。

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グローバルマネーの風向きに揺れる相場

 米国のCPIは市場予想を上回ったが、投資家の視線は早くも17日のFOMCに向かう。インフレの粘着性が残るにもかかわらず、「利下げ開始」という期待が市場を先走らせている。ブラジル市場はこの外部環境に極めて敏感で、自律的な成長よりも外部要因に押し上げられた記録更新と見るべきだ。

 一方で、国内の小売統計は4カ月連続の減少。高金利と家計債務が消費を圧迫しており、内需の脆さはむしろ際立っている。


国内経済は停滞感も

 一方、ブラジル国内の経済指標は力強さを欠いた。統計局(IBGE)が発表した小売販売は4カ月連続で減少。XPのエコノミスト、ロドルフォ・マルガト氏は「高金利と家計債務の増大が消費を圧迫している」と指摘する。年後半は小幅な回復を見込むものの、需要全体の停滞感は拭えない。


政治の動揺:ボルソナロ元大統領に27年刑

 投資家心理を揺さぶったのは政治ニュースだ。連邦最高裁(STF)は11日、2022年のクーデター未遂事件をめぐり、ボルソナロ元大統領に懲役27年3カ月(うち24年9カ月を実刑)を科す判決を下した。報告官アレシャンドレ・デ・モラエス判事の提案に複数の判事が同調し、すでに多数意見が形成された。

 米国のトランプ大統領は「魔女狩りだ」と非難し、関税強化やビザ取消しなどの対抗措置を発表。米国務長官ルビオ氏も「適切な対応をとる」と表明し、米国・ブラジル関係が新たな緊張局面を迎える可能性が浮上した。


ルーラ大統領の支持率上昇

 同時に、世論調査機関Datafolhaはルーラ大統領の支持率が33%に上昇し、今年最高水準に達したと発表した。支持と不支持の差は縮まり、政権運営への信任が改善していることが示された。この点が、外国人投資家に「政治安定化」と映り、相場の押し上げ要因となった。


銘柄ごとの温度差

 ヴァーレや銀行株の上昇は、政策支援と外需依存の組み合わせが奏功した例だ。対照的に、ペトロブラスは国際原油安に直撃され、国営企業特有の政策リスクも重荷となる。さらに、スザノは米国の対セルロース関税撤廃で上昇したが、これは国際政治の決定に左右される典型である。

 マガジン・ルイーザの急伸は、過剰な悲観が是正された反発にすぎず、国内消費基盤が回復した兆候とは言い難い。こうした銘柄ごとの温度差は、ブラジル市場が「外部要因の勝ち組」と「内需の苦戦組」に二極化していることを示す。


投資家への含意

個人投資家視点

 短期的な熱気に飛び乗ることは魅力的に映る。しかし、相場が外部環境依存である以上、米金利や国際政治の一報で流れが一変するリスクは高い。為替リスクも絡むため、高配当株やドル建て資産との組み合わせでリスクを抑える戦略が不可欠だ。

機関投資家視点

 より冷静な視座が求められる。米国利下げ局面では新興国への資金流入が加速するが、ブラジルは政治・司法リスクが常に付きまとう。サステナブル投資や資源循環型ビジネス(スザノの森林事業など)は長期テーマとして有望だが、政策不確実性を織り込んだリスクプレミアムを前提にする必要がある。


結論――記録更新は「強さ」ではなく「流動性の幻影」

 Ibovespaの記録更新は、米国金融政策という外的要因に支えられた一過性の現象に近い。政治リスクと国内需要の脆さを考えれば、ブラジル市場はなお不安定だ。投資家にとって重要なのは、記録的な高値そのものではなく、その背後にある構造的リスクをどう評価し、どうヘッジするかである。

 日本の投資家がこの市場に臨む際は、「高値更新」の熱気に惑わされず、政治と国際金融の力学を冷徹に見極める姿勢が求められる。


【10日の市況・短報】Ibovespa前日比0.52%高の14万2348.70ポイント/ブラジル国内では予想下回るデフレ/米国の対ブラジル関税強化に懸念前の記事 【10日の市況・短報】Ibovespa前日比0.52%高の14万2348.70ポイント/ブラジル国内では予想下回るデフレ/米国の対ブラジル関税強化に懸念
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