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三つの世界のあいだで=第1回=10年ぶりのブラジル訪問=ドイツ在住 児島阿佐美

2026年1月8日

フロリアノポリスの観光地ラゴア・ダ・コンセイソン
フロリアノポリスの観光地ラゴア・ダ・コンセイソン

ブラジルは不思議な国だ。

関わると振り回されるのに、距離を置くと気になって仕方がない。まるで思春期の恋愛のようだ。

ドイツへ移住して10周年目となった今年11月、初めてブラジルを再訪した。友人の住むボゴタを経由し、サンパウロ、そしてドイツ移民のゆかりの地、フロリアノポリスへ。

結論から言うと、3週間弱の滞在は想像以上に実り多きものとなり、「絶対また来よう」と心に決めた。初めて南米の地を踏んだドイツ人の伴侶もすっかり気に入り、「南米を将来の拠点にできないか」などという話まで飛び出した。

正直、ブラジルにこれほどサウダーデ(郷愁)を感じるとは思ってもいなかった。なにしろサンパウロに住んでいた当時は、ひどい排ガスの匂いや頻発する凶悪犯罪、始終アンテナを張っていないといけない治安状況に、少々辟易していたからだ。

なのに、時折無性に南米の空気が恋しくなった。手入れが行き届いた美しいドイツの街並みや、メルヘン童話の挿絵のようなクリスマスマーケット、女性の働きやすい労働環境、何一つ不自由がない生活なのに。南米を恋しくさせる何か―それが一体何なのかを、確かめてみたかった。

サンパウロ市内をそぞろ歩き、フェイジョアーダや新鮮なフルーツ・ジュースに舌鼓を打ち、懐かしい場所を訪ねて回ると、好奇心旺盛なブラジル人店主に「どこから来たの」と度々声をかけられ、時には「何か困ったら連絡して」と連絡先を渡された。コインランドリーの店員とは名前を呼び合い、別れ際にハグをする仲になった。

日本でもドイツでもめったに経験できないこの距離感。これがブラジル生活を思い出すと、温かい気持ちになる理由の一つである。

「サンパウロ自体がまるで巨大なジャングルだね」。市内をひとしきり観光したドイツ人伴侶が感想を漏らした。確かに、ダウンジャケットを着こんでいる人もいれば、ノースリーブにビーチサンダルという出で立ちの人もいる。肌の色も白人、アジア人、黒人と色とりどり。高級住宅街かと思えば、一本先の道はグラフィティだらけの怪しげな雰囲気で、「都市自体がジャングル」という表現は言い得て妙だ。

確かにこれほど多様性に満ちた国は珍しいのかもしれない。原始林もあれば近代的な大都市もあり、貧困もあれば豊かさもある。平均値のない世界。どこにスポットライトを当てるかで、まるで違って見える万華鏡のような国だ。

ドイツも日本も治安がよく、世界有数の暮らしやすい国ではあるが、一方で、「こうあるべき」「これが正しい」といった〝べき論〟は圧倒的に強いと感じている。特に日本は単一民族であることも手伝って、真面目な人ほど集団の圧力に縛られやすく、平均値の中に収まるように無意識に自分を抑えてしまいがちであると思う。

ブラジル人たちの陽気な、時には型破りな、どこまでも自分軸な生き方は、社会的正しさを優先してお行儀よく生きている人間に、「もっと自由に生きていいんだよ」と語りかけてくる。多分、これが10年たっても消えなかった、サウダーデの正体なのだろう。

「次はいつ南米に行く?」—そんなやりとりが伴侶との間で日常となった今、〝思春期の恋愛〟のようなブラジル熱はまだまだ下がりそうにない。


児島さんは現在ドイツ在住で、海外での転職や起業、フリーランスで海外生活をするノウハウ、日本企業の欧州進出に関する相談を受けている。連絡先や詳細はサイト(mysento.coach)で。


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