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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(340)

2026年2月12日


 導火線の火が、地雷にジリジリ接近していた。危機感が組合本部に広まった。

 果然、拒絶反応が起こった。ケイロウの返り咲きを阻もうとする声が上がったのである。

 その中心人物が誰なのか、筆者は、当時は知らなかった。やがて、それがゼルヴァジオその人だったことが判った。

 本人が筆者に、こう話したからである。

 「ケイロウは、サン・ジョアキンに居った方が、彼のためにも良いンだ。もともと健吉さんの息子であるという特権意識が強すぎる!

 サン・ジョアキンに行ってから、色々と画策していた。本部にも来て、その種の働きかけを(役職員に)する。そういった動きは、情報がすぐワシのところへ伝わってくる。

 しかし、プーリングの金に手をつけた以上、返り咲きということは、ありえない。

 八七年の選挙では、ワシが封じたヨ」

 ゼルヴァジオが、この話をしたのは、それから数年後のことであったが「特権意識が強すぎる!」と言ったとき、右手で椅子の肘掛けを激しく叩いた。

 その八七年の選挙が近づいた頃、組合内部でのゼルヴァジオの力は絶頂期にあった。それもあって反ケイロウ・ムードが盛り上がった。

 現職の監事や選挙管理委員までが、動いた。時の監事の一人、神取忠(コチア青年)によれば、次のようなことがあったという。

 「ケイロウが監事選に出るというので、組合の内部が騒がしくなった。皆が問題にしたのは、

 『ケイロウは専務時代、公私混同が多かった。そういう人間が監事になるなんて、許せない』

 というものだった。

 それで、もう一人の月番監事の森昭雄さん(戦前一世)と、ケイロウの専務時代の夜の金の使い方を洗い直してみた。

 結局、判ったところでは、使った金額は、バタタをカミニョンに何台分かで、たいしたことはなかった。

 ただ、それを自分のアシーナだけで、経費として落としているのはマズかった。使った先はクラブか何かで、自宅でのパーテーの経費請求まであった。

 調べた時には、できたらケイロウの名誉回復をしてやろうという気持ちもあった。が、結論としては、どうもイケナイということになり、北パラナ単協理事長で選挙管理委員会の副委員長をしていたIさんに、そう伝えた」

 Iは、北パラナがケイロウを監事候補に推していることで、すでにゼルヴァジオの怒りを買っていた。さらに、この監事会の意見を受け、ケイロウ推薦を中止した。

 しかも、その総会での運営審議役選挙で、松原を落選させてしまう。自分たち北パラナの候補として立候補させたのに、投票の前日、票を削ってしまったのである。

 総会に出席のため各地から集まった代議員(単協代表、役員選挙の投票者)の宿舎でのことである。

 北パラナの代議員たちに、そのように説得している姿を目撃されている。

 松原は執行理事の椅子も失った。

 既述したが、理事は審議役の中から選ばれる仕組みになっていたからである。

 Iは何年かして、松原に謝罪したという。

 なお、ここで外部の人間を驚かすのが、選挙管理委員会の副委員長が、右のように選挙運動をしていることだ。

 選挙管理委員というのは、厳正に中立を守る義務がある。ところが、コチアでは、この件に限らず、その種の義務を平然と破る風潮が生まれていた。

 「小川さんが八一年に専務になった頃からだナ、それは…」

 と、ある元役員は呟いていた。

 ところで、右に記した監事の神取、森のとった行動について、ケイロウの言い分を訊いてみた。

 「組合員をまとめて行くということは大変なことで、そのために、夜遅くまで会議をやった折など、皆をクラブやなんかに招待した。

 経費請求は、自分でアシーナして、秘書に経理に回させた。

 当時は、金を支払った先から受け取るノッタ・フィスカルに当人がアシーナをし、上司にまわし、その承認を得て、経理に届けることになっていた。

 その経理部門を担当していたのは小川さんであり、小川さんの承認がなければ、カイシャは、金を出さないことになっていた。

 専務の私の上司といえば、副会長の小川さんであり、その人が最終的な承認を与えるのだから、それでいいと思っていた。

 自宅でのパーテーは二回やった。一度は橘さんなど南銀幹部を招待、コチア側からは会長も来ていた。もう一度は、私が事故で骨を折ったときに、職員に自宅まできて仕事をしてもらった、その慰労だった。

 監事は、そのような意見をIさんにするとき、私を呼び、私の言い分を聞くべきではなかったか?

 また、金の出納については、年度毎の総会で承認しているのだから、当時の監事を立ち会わせるべきであった筈」(つづく)


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