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ブラジル日系社会=『百年の水流』(再改定版)=外山脩=(374)

2026年4月3日


 この諮問委員は、イリネウ・ケイロウ間の調停が任務であった。岩城修(戦後一世)、前田イサオ(二世)で、それまでは、夫々の地元の単協の理事長を務めていた。

 コチア産組は、八月二十日、臨時総会を開いて、定款を変更、新役員として、右の五人を選出した。

 この時、新役員会の名称を運営審議会としている。それまでの同名の機関と紛らわしいが、別機関である。執行理事会は置かず、審議・執行の両機能を兼ねることになった。

 会長はイリネウ、副会長はゼルバッチと決った。

 ケイロウは審議役となった。一九八一年の専務解任から十二年ぶりの返り咲きであった。

 なお、相談役制度は廃止され、ゼルヴァジオと小川は、その任を解かれた。

 ゼルヴァジオとケイロウの立場は、逆転したことになる。

 新審議会は、八月二十六日、共同記者会見を行い、組合再建へのスタートを発表した。

 その折の新聞記事には、これで六、〇〇〇万融資は決定したように書かれている。会長イリネウは、

 「本来なら、倒産に追い込まれた筈だが、再建に向けスタートを切ることができたのは、日系コロニアとコチアの信用の高さによる」

 とスピーチ、関係筋に感謝の意を表した。


 しかし状況、好転せず


 一九九三年八月に発足したコチアの新審議会は、組合の業務組織を、それまでの七局から三局に統合した。

 その内の一つの局長には、三年前に理事会入りを阻まれ、組合を去った岸野晴彦が呼び戻されていた。

 その様にして再スタートを切ろうとしている中に、また凶報が入った。日本の外務省からで、

 「海外経済協力基金の資金協力は、見直すことになった」

 と、知らせてきたのである。

 バンコ・ド・ブラジルの保証も得られず、しかもコチアの瓦解が表面化してしまったためであった。

 これで、基金の件は完全に〝おしまい〟であった。

 ここで、裏面にふれておくと、この資金協力、実は金は投資という形で持ち込み、実際は運転資金として利用するという超法規的ヤリクリが、関係者間で暗黙裡に了解されていた。

 もし融資が実現、その後、この裏面が表沙汰になったら、どういうことになっていたであろうか…。

 見直しは、コチアだけでなく、スールも巻き添えとなった。

 スールでは、前年末、単協は二十九、従業員は九〇〇人まで減っていた。その縮小は、さらに継続中であった。

 そして、売りに出していたブリーの植林場に買い手がついた。しかし、故中沢理事長の(前章で既述の)予言があったためであろう、内密にしていた。売り値は五〇〇万㌦ほどで、それはホット・マネーの銀行債務を減らすために使用された。

 コチアでは、さらに、次々と、面白からぬことが起きていた。まず、例の出荷物代金やフンド・ロタチーボのプレーゾ分と組合資産との交換にストップがかかった。副会長ゼルバッチの意向であった。

 「すでに前会長が許可したものは仕方がないが、今後は駄目」

 だというのである。

 次に、債権銀行の中に、訴訟に踏み切るところが出ていた。

 前役員を刑事訴追するところもあった。抵当にとっておいたサイロ内の穀物を知らぬ間に売り払われた銀行である。

 さらに従業員の散発的なグレーベも起きていた。低給与の従業員には、全額に近いものが払われていたが、そのクラス以上は、五月以降、一部が先送りされていたのである。

 組合蘇生の鍵となるバンコ・ド・ブラジルあるいはバネネパからの六、〇〇〇万融資の話は、一向に実現しなかった。十月、十一月…と、それは続いた。

 前審議役・理事は「自分たちは六、〇〇〇万融資の約束と引換えに辞任した」と思い込んでいた。が、債権銀行委員会の方は、そういう風に確約したことはない、と言い出した。なんともアヤフヤな話であったわけだ。

 この件に関しては、その後バンコ・ド・ブラジルが、新たに「融資額の八五㌫の保証が、債権銀行から得られれば、出す」と保証額を引き下げ、委員会はそれを得ようとしていた。が、これも難航中だった。

 十一月、コチアは組織改革をさらに進めて、デスセントラリザソン(事業と資産の単協への移管)に踏み切った。

 十八章で記したことだが、コチアは法的には、多数の単協を中央会が統括する組織体制をとっており、名称も正式にはコチア産業組合中央会であった。

 その発足時、組合の販売、購買、人事、財務その他の業務の大部分と資産を中央会の管轄下に置いた。

 それを地方の単協に移す、単協は自主採算制をとるというのである。

 根本的改革であった。(つづく)


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