【3日の市況】ブラジル株が初の14万1千ポイント台に到達=世界的なリスク選好で新興国に資金流入 最大級のサイバー攻撃発覚も
ブラジル株式市場の代表的株価指数「Ibovespa(イボベスパ)」が3日、史上初めて14万1千ポイントを突破し、終値でも過去最高を更新した。米国で発表された6月の雇用統計が市場予想を上回る内容となったことを受けて、世界的に株式市場にリスク選好の流れが強まる中、ブラジル市場もその恩恵を受けた格好だ。
イボベスパはこの日、取引時間中に一時14万1,303.55ポイントまで上昇。その後も堅調に推移し、終値は前日比1.35%高の14万927.86ポイントと過去最高を記録した。これまでの最高値は5月27日の14万381.93ポイント、終値の最高は5月20日の14万109.63ポイントで、これらをいずれも上回った。取引終了時点で14万1千ポイント台に乗せたのは、今回が初めてとなる。
為替市場でもブラジル通貨レアルが対米ドルで上昇。ドルは0.29%下落し、1ドル=5.404レアルで引けた。大手証券のXPインベストメントは2025年末の為替見通しを従来の5.80レアルから5.50レアルに引き下げた。XPはまた、ブラジル中央銀行が政策金利(Selic)の引き下げ開始時期を従来の「2025年4月」から「2025年1月」に前倒しするとの見通しも示した。
ただし、この日の金利先物(DI)市場は軟調で、全体的に利回りが上昇した。
政権内対立はくすぶるも、市場は強気
こうした株高は、政権内における不協和音が続く中でも進んだ。連邦政府による金融取引税(IOF)に関する大統領令をめぐって、行政府と議会との間で摩擦が続いている。中道右派の「民主運動(União Brasil)」の党首はルーラ大統領に対し、「対話か対立か、どちらかを選ぶべきだ」と発言。所得税非課税枠を月収5,000レアルまで引き上げる法案の審議についても、報告官役のアルトゥール・リラ氏が「来週再開される」との見通しを示した。
さらに、連邦最高裁判所(STF)のフラヴィオ・ジーノ判事は、議会による義務的な予算修正(emendas impositivas)に関し「見直しが必要だ」との考えを示した。
米雇用統計が追い風に、インフレ懸念はやや後退
ブラジル市場の上昇をけん引したのは、米国で発表された6月の雇用統計(payroll)だ。雇用者数の増加が市場予想を上回り、失業率も低下した。一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)が注目する平均時給の伸びは前月比0.2%と予想(0.3%)を下回り、前年同月比でも3.9%から3.7%へと鈍化した。これにより、市場ではインフレ圧力が和らぎ、年内の利下げ観測が強まっている。
RBインベストメントのチーフストラテジスト、グスタボ・クルス氏は「FRBが健全とみなす年3.5%程度の賃金上昇に近づきつつあり、利下げ環境が整いつつある」と指摘。ただし、金融市場ではFRBが9月に利下げに踏み切る確率は依然として限定的との見方も根強い。
ニューヨーク市場では、7月4日の独立記念日を前に取引時間が短縮されたが、主要株価指数は揃って上昇して取引を終えた。欧州市場も堅調で、欧州中央銀行(ECB)はこの日公表した議事要旨の中で「貿易関税に関する不確実性」を指摘した。
業種別では金融と消費がけん引、Valeは下落
ブラジル市場ではこの日、値上がり銘柄が全体の約9割に達した。主力の鉄鉱石大手Vale(VALE3)は0.47%下落し、市場全体の中でやや異なる動きを見せた。出来高は米国の休場による低調さが影響した。
一方、国営石油大手Petrobras(PETR4)は0.34%上昇。同社はこの日、リオデジャネイロ州での製油所統合に向けた投資計画として、260億レアルを投じると発表した。中小の石油関連株も連れ高となり、Brava(BRAV3)は第2四半期の生産量が21%増加したことを受けて1.82%高となった。
銀行株は軒並み上昇。ブラジル銀行(BBAS3)が1.41%、ブラデスコ(BBDC4)が2.38%、イタウ・ウニバンコ(ITUB4)が2.47%、サンタンデール・ブラジル(SANB11)も0.10%上昇した。
小売株ではロハス・ヘネール(LREN3)が2.46%高、業務用スーパーのアサイ(ASAI3)も1.69%上昇した。航空・防衛機器大手エンブラエル(EMBR3)は速報的な好決算を受けて4.42%高となり、通信大手TIM(TIMS3)も株式併合・分割を好感して2.91%上昇した。
サイバー攻撃で最大30億レアルの被害か、金融インフラに脆弱性
一方で、同日明らかになった大規模なサイバー攻撃が、ブラジル金融システムの根幹に深刻な警鐘を鳴らしている。攻撃を受けたのは、銀行向けにシステム基盤を提供する「C&Mソフトウェア」社。同行のクライアントIDなどを用いた不正アクセスにより、中央銀行に預けられた決済専用口座から数億レアル規模の資金が不正に送金された。
被害総額は当初8億レアルと見積もられたが、一部の関係者によると30億レアル(約900億円)を超える可能性もあり、ブラジルの金融史上最大級のサイバー事件となる恐れがある。
攻撃は6月30日(日)深夜から7月1日(月)未明にかけて発生。Banking as a Service(BaaS)を提供するBMP社の決済口座からは、わずか数分で4億レアルが引き出されたとされる。影響を受けた金融機関は少なくとも8行とみられている。
中央銀行はこの攻撃を受け、C&M社のシステムを緊急停止させた。この結果、同社を中継プロバイダとして利用していた293の金融機関で一時的にPix(即時送金システム)への接続が不能となった。BMP社やバンコ・パウリスタなどの関係機関は、顧客資産への被害はないとしている。
現在、連邦警察が犯行グループの特定と資金の行方を追って捜査を進めており、金融当局はITサービス業者(PSTI)に対する監督強化やセキュリティプロトコルの見直しを検討している。