【10日の市況】前日比0.54%安の13万6,743.26ポイント=50%関税ショックでも下げは限定的──鉱業株が下支え、影響は一部銘柄に集中
ブラジルの代表的な株価指数であるイボベスパは10日、前日比0.54%安の13万6,743.26ポイントで取引を終えた。前日夜、米国のドナルド・トランプ大統領がブラジルからの全輸入品に対し50%の新関税を課すと発表し、株式市場に衝撃を与えたものの、鉱業・鉄鋼関連銘柄の上昇が指数全体の下げを和らげた。

中国・大連市場における鉄鉱石価格の3.67%上昇が追い風となり、特に資源大手ヴァーレ(VALE3)が堅調に推移した。一方、新関税の直接的な影響を受けるとみられる航空機大手エンブラエル(EMBR3)などは売りが優勢となった。
この日のイボベスパは、一時1.07%安の13万6,014.47ポイントまで下げたが、その後下げ幅を縮小。出来高は263億レアルに達した。
トランプ氏、ブラジル製品に一律50%関税
トランプ大統領は9日、既存のセクター別関税とは別に、ブラジルからの全製品を対象に50%の新関税を8月1日から導入すると発表。鉄鋼やアルミニウムといった既存の対象品目以外にも幅広く適用される見通しだ。
これに対しルーラ大統領は「まずは米国と交渉を試みるが、成果が得られなければ対抗措置を取る」との方針を示した。ブラジル政府は関税を政治的な動機によるものと見ており、外交ルートを通じた正式な通知は現時点で受け取っていない。
経済・市場への影響は限定的との見方
市場関係者の間では、今回の措置の経済全体への直接的な影響は限定的との見方が多い。資産運用会社ARXのチーフエコノミスト、ガブリエル・バロス氏は「ブラジルの輸出は主に世界的に需要のあるコモディティに集中しており、外部ショックに対する耐性が高い」と分析。
サンタンデール銀行のストラテジストチームも「一部企業を除き、株式市場全体への影響は限定的」との見解を示した。
米国はブラジルにとって中国に次ぐ第2の貿易相手国で、2024年の貿易額は403億ドル(GDP比1.9%)に上る。輸出の多くは大豆や鉱石などのコモディティであり、他市場への転用が比較的容易だと専門家は指摘する。
企業への影響──エンブラエルが最大の懸念
個別銘柄では、米国市場への依存度が高いエンブラエル(EMBR3)が3.7%下落。一時は8%以上値を下げる場面もあった。JPモルガンは「新関税による売上高への影響は最大13%に及ぶ可能性がある」と試算し、米国での生産によるコスト増も懸念されると指摘した。
ヴァーレ(VALE3)は2.29%高。鉄鉱石相場の上昇を受け、CSN(CSNA3)やウジミナス(USIM5)、ゲルダウ(GGBR4)といった鉄鋼株も軒並み上昇した。
一方、金融株は軟調。イタウ・ウニバンコ(ITUB4)は3.08%下落し、サンタンデール・ブラジル(SANB11)、ブラデスコ(BBDC4)、バンコ・ド・ブラジル(BBAS3)も続落した。UBS BBがイタウ株の投資判断を「中立」に引き下げたことが背景にある。
石油大手ペトロブラス(PETR4)は0.25%安。原油価格が2%以上下落したにもかかわらず、限定的な下げにとどまった。ブラデスコBBIのアナリストは「米国への輸出割合が小さく、影響は軽微」と分析した。
政治への波及──“反トランプ”でルーラ氏に追い風も
政治面では、今回の関税措置がルーラ大統領にとって“予期せぬ追い風”となる可能性があるとの指摘もある。UFRJの政治学者ジョズエ・メデイロス氏は「トランプとの対立はナショナリズムや主権擁護といった伝統的な左派の価値を前面に出す好機」と述べる。
メデイロス氏は、メキシコのシェインバウム大統領が就任直後にトランプと対立し、支持率を上昇させた事例を引き合いに出し、「ルーラ政権も“反帝国主義”を旗印に再び世論を味方につける可能性がある」と分析した。
IESP-UERJのクリスチアン・リンチ教授も、「極右的なトランプ主義に対するブラジルの“模範的”対応が、左派勢力の結集と2026年選挙に向けた布石になる」との見方を示した。
ブラジル政府、報復措置を準備
ルーラ大統領はすでに報復措置の検討に着手しており、通信相のシドニオ・パルメイラ氏は「経済的相互主義に基づき、必要な対応を取る方針」と明言した。
対抗策として、知的財産権の制限や米国製医薬品の特許期間の短縮、輸入原材料への特典撤廃などが検討されている。また、輸出企業との協議や多国間枠組みとの連携強化も進められている。
同氏は「今回の措置は政治的動機によるものであり、米側が再考する可能性は低い」との認識を示した。ルーラ大統領は近日中に国民向けのテレビ演説を行う見通しで、政府としての立場を改めて説明する構えだ。
今後の展開次第では、経済のみならず、地政学リスクや2026年大統領選の構図にも影響を及ぼす可能性がある。ブラジル政府と市場の対応が注目される。