「カリスマなき政党」の悲哀

10月の選挙で主役の座を狙っていたブラジル社会党(PSB)が、「現実」という名の壁にぶち当たっている。
大統領選におけるルーラ元大統領の人気に便乗して、労働者党(PT)と連立を組み、サンパウロ州知事選を有利に進めようとしたが、その候補者選び交渉がなかなかうまくいっていないのだ。
PSBは党の看板政治家であるマルシオ・フランサ氏をサンパウロ州知事選に出馬させたがっている。フランサ氏といえば、知事辞任の副知事から昇格という形かつ、9カ月の短期間ではありながらも、かつて聖州知事も務めたほどの人物。PSBはフランサ氏を選挙を経た正式な知事にさせたいからこそ、ジェラウド・アウキミン氏をルーラ氏の副候補に据えるという、仰天プランもぶちあげた。
PSBとしては「アウキミン氏を副候補として提供する見返りに、サンパウロ州知事ではどうしてもらいたいか察して欲しい」というのが本音だったのではないかと思う。
だが、それで空気を読むようなPTではなかった。PTとしては、7期も続いてきた民主社会党(PSDB)のサンパウロ州知事政権を終わらせ、PT初のサンパウロ州知事誕生というタイミングをみすみす逃す手はない。
PTはサンパウロ市市長も務め、大統領選で次点に輝いた実績のあるフェルナンド・ハダジ氏の擁立を主張して譲らない。フランサ氏には残念なことだが、現状の知名度で、同氏はハダジ氏には敵わない。
そして、そこに追い打ちをかけるように、PSBのリオ州知事候補のマルセロ・フレイショ氏にまで「ハダジ氏が出馬しないのなら、左派の州民はフランサ氏でなくギリェルメ・ボウロス氏に票を入れることになる」とあっさり言われる始末。
フレイショ氏がこう発言する背景には、同氏が獲得してきた「ネット上での人気」の存在を理解しているためだ。同氏もかつて所属したボウロス氏の政党、社会主義自由党(PSOL)は都市部でのネット上での人気が強く、サラリーマンさえ抑えていれば勝てそうな地方都市とは勝手が違う。事実、2020年のサンパウロ市長選でもフランサ氏はボウロス氏に完敗。若年層を中心とした「左派のリーダー格」の魅力に欠けてしまうのだ。
フランサ氏に限らず、PSBのこれまでのイメージは実務寄りで、ネット戦略によるカリスマ的なオピニオン・リーダー作りに消極的だった。そうした、カリスマ性に欠けた地味な政党ゆえに、新リーダー作りという生みの苦しみのさなかに、今のPSBはいるのではないだろうか。(陽)