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「URSAL再び」=短命化する南米保守政権

2022年6月24日

コロンビアの大統領選で当選したペトロ氏(facebook)
コロンビアの大統領選で当選したペトロ氏(facebook)

 「URSAL再び」。19日からこうした言葉が数年ぶりに聞かれるようになった。「URSAL」とは「ラテン・アメリカ社会主義連合」を意味し、00年代にブラジルの社会学者が、当時中南米各国で強まりつつあった左傾化を皮肉ってつけたもので、「中南米の左派が裏で結託して中南米一帯を社会主義連合国家にしようとしている」との、いわば陰謀論から生まれた言葉でもある。
 中南米では、90年代末のベネズエラのチャベス政権成立以降、左派政権が次々と生まれた。ブラジルのルーラ政権もその代表的な存在だった。アルゼンチンのフェルナンデス夫婦政権や「質素第一」のスピーチが話題を呼び、日本でも有名になったウルグアイのムヒカ大統領なども長期で政権を握った。
 これら政権の誕生は、60年代から80年代前半に南米中に存在した軍事独裁政権に虐げられた反抗の闘士たちによってもたらされた。この時期の南米軍事独裁政権は米国が中南米に「第2のキューバ」を作らないことを目的に作られていた。結果として、左派政権阻止の策謀が年月を経て裏目に出た形となった。
 こうして「中南米の左派優位」は2010年代の前半まで続いた。だが、ベネズエラがチャベス氏の死後、マドゥーロ大統領によって独裁国家化。ブラジルではPT政権に対する汚職捜査「ラヴァ・ジャット作戦」が実施され、捜査の波が中南米の左派政権を襲ったあたりから各国左派政権は崩れ、南米各地に新自由主義経済をかかげる保守政権が次々と生まれていった。その極めつけが2018年に生まれたブラジルのボルソナロ政権だ。
 ボルソナロ氏自身も保守化した南米を率いる気満々だった。しかし、その矢先に南米保守に対する逆風が吹き始めた。
 2019年にはチリやエクアドルで連日のように反保守化民衆デモが発生。ボルソナロ政権による環境問題無視や中国への暴言、反コロナ対策言動は世界的に悪評を買った。18年大統領選で不正を訴え暴徒化した極右勢力の先住民への人種差別的暴力も社会問題化した。
 南米保守派が「正義」の拠り所としたラヴァ・ジャット作戦も捜査手順の不正疑惑からルーラ元大統領が釈放され、信頼がガタ落ちした。
 そして現在、アルゼンチン、ボリビア、ペルー、チリで次々と左派政権が誕生している。19日には、00年代の中南米左傾化のときにさえ頑なに保守派のままだったコロンビアに左派大統領が誕生した。URSAL現象はむしろ強まって回帰しているかのようだ。
 10月にはブラジルで大統領選が行われる。「保守南米」を率いようとし、却って逆風を招いたボルソナロ氏は「南米左派」の象徴ルーラ氏の復活を止められるか。(陽)


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