50%関税はインフレに好影響?=中銀金利引き下げ早めるか

トランプ米政権が発動した50%関税措置は、思わぬ形でブラジル国内の物価に影響を与え始めている。25年は一部食品価格の下落を通じてインフレ抑制につながる可能性がある一方、26年以降は生産縮小に伴う供給不足などにより、一転してインフレ圧力が強まる恐れもあるという。中銀はこうした不確実性を踏まえ、利下げの時期や幅の判断に慎重な姿勢を維持していると14日付G1(1)が報じた。
米政府が導入した関税措置は、ブラジルの主要輸出品であるコーヒー、肉類、果物、魚介類、機械設備など幅広い品目に及んでいる。この措置により、米国市場向けだった商品が内需に回る傾向が強まり、供給過多によって一部製品の価格が低下し始めた。これが国内のインフレ抑制に寄与するとの見方が経済専門家の間で広がっている。
RBインベスチメントのチーフストラテジスト、グスタヴォ・クルス氏は、特に果物や魚介類の価格が国内市場で下落していることを指摘。卵も価格低下が見込まれ、「これらの品目は米国向けから内需に切り替わり、価格抑制効果が表れている」と述べた。一方、肉類やコーヒーは輸出先の多様化を図る動きがあり、価格低下の影響は限定的だと分析している。
経済学者のアンドレ・ペルフェイト氏は、7月の広範囲消費者物価指数(IPCA)が市場予想を下回ったことを挙げ、関税措置に伴う食品の過剰供給がインフレを抑制しているとの見解を示した。だが、この影響は短期的であり、今後の動向には不確実性があると指摘している。
ダヴォス・インベスチメントの株式専門家マルセロ・ボラジーニ氏も、一部食品の価格下落により25年のインフレ率にわずかな低下圧力がかかると予測するが、その影響は数百分の一ポイントに止まると指摘。特にマンゴーやブドウなどの果物価格が下落傾向にあり、米国市場依存度の高いチラピア(カワスズメ科の淡水魚)の価格低下も見られると報告した。
だが、26年以降の見通しは不透明だ。クルス氏は、今年の損失が生産者に与える影響が大きければ、生産量の縮小によって供給不足が生じ、物価が想定以上に上昇する可能性を示した。世界各国の中銀は、インフレの影響が一過性か恒常的か判断に慎重な姿勢を取っている。
ブラジル中銀は、金融政策の主軸である経済基本金利(Selic)を通じてインフレ抑制を図っている。現在のインフレ目標中央値は3%で、1・5~4・5%が許容範囲となっている。現在のSelicは15%と20年ぶりの高水準であり、インフレ率が上限を超えていることを踏まえ、高止まり傾向を示す。
政策決定にあたっては、12カ月間のインフレ動向を先読みし、18カ月後に政策金利が経済に与える影響を見越す必要がある。現時点では27年3月までのインフレ率を約3・4%と見込んでおり、この見通しに基づき慎重な金融政策運営が続けられている。
市場関係者の多くは、政策金利の引き下げ開始は26年になると予想するが、ペルフェイト氏は関税措置が金融緩和のタイミングを前倒しする可能性を指摘。年末にはSelicが14・5%に低下すると見ている。ただし、関税による経済的打撃が財政赤字を拡大し、インフレ圧力を強めるリスクもあると認めている。
一方、ボラジーニ氏は、食品価格の下落が持続し、インフレ率が目標内または目標以下に収まる場合、中銀が利下げを早める可能性を示した。ただし、「現時点ではそれは主流シナリオではなく、25年中の利下げは可能性が低い」と結論づけている。