歌誌『椰子樹』407号刊行=日々の暮らしや記憶を短歌に結晶
1938年創刊の歌誌『椰子樹』12月号(407号)が、椰子樹社(多田邦治代表)から刊行された。長い歳月を刻んできた同誌は、いまも静かに確かな歩みを続けている。
作品(多田邦治選)には、日々の暮らしや記憶をすくい取った歌が並ぶ。梅崎嘉明「庭先につつじが咲きて側えなるプールにあまたトンボ飛ぶ」「常夏と言わるる国に住み古りて四季の区別の判別ならず」。つつじは春、トンボは秋という日本の感覚が通じない土地での、ささやかな戸惑いと発見がにじむ。
小池みさ子「日本に居りしが母の死に目にも会えざりしわが苦き思い出」「いちょうの樹々彩づくニュースに蘇る母の死知りし日の悲しみが」。遠く離れた地に住むがゆえに受け止めた喪失の記憶が、季節の移ろいとともによみがえる。
小濃芳子「朝方の夢に現るふるさとの若き日の姉その歯の白し」「真夜中に調子狂いて滑り落ち呼べども叫べども誰も気付かず」もまた、日常の一瞬に潜む不安や懐かしさをすくい上げる。
辻倫子「診察に連れて来られた犬の子はロボットと獣医の息子言葉失う」「ロボットは獣医の手には負えないと断りすれど帰らぬ女」「ロボットに聴診器あて診察し獣医の診断此れはボケです」は、現代社会を映す連作。ロボット犬をめぐるやりとりの中に浮かび上がるのは、飼い主の老いの問題であり、ユーモアの裏に切実さがのぞく。
【編集余話】では「今、作品を寄せてくれる方々、わずか十数人になってしまったが、健康な人ばかりではあるまい。老齢にともなう病とはいわずとも、身体の不調や不具合、さらには心に悩みや哀しみを抱えていても不思議ではない。むしろ当然だろう。そんな境遇にある私たちにとっては毎号毎号、一号一号がまぎれもなく記念号なのではないだろうか。さらに作品一首一首が記念の作品なのかも知れない。いやそうに違いない」と記されている。言葉の奥に、詠み続ける人々の思いと、静かな覚悟がにじんでいる。
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