【8日の市況】イボベスパは前日比0.13%安の13万9,302.85ポイントで2日続落=トランプ政権の関税方針に市場は神経質、鉄鋼・アルミ輸出にも逆風
8日のブラジル株式市場は続落し、主要株価指数のイボベスパは前日比0.13%安の13万9,302.85ポイントで取引を終えた。米国発の貿易摩擦への懸念が再燃し、投資家心理を冷やした。一方で、鉄鉱石大手ヴァーレ(VALE3)や国営石油会社ペトロブラス(PETR4)の上昇が、指数の下支えとなった。

為替市場では、対米ドルでレアルが0.59%上昇し、1ドル=5.445レアルをつけた。債券市場では、将来の政策金利を反映するDI(預金証書)金利がまちまちの動きとなった。
米国株も上値重く、トランプ氏の発言に翻弄
市場の関心は米国に集中している。ドナルド・トランプ前大統領は、8月1日から新たな輸入関税措置を発動すると改めて表明。これを受けて、米国株式市場も方向感を欠き、主要指数はまちまちで終了した。
「今回の発表の詳細を分析しても、何が新しくて何が以前と同じなのか分かりにくい。実際に発動されるのか、どの企業に影響するのかも不透明だ」。米調査会社トライバリエート・リサーチのCEO、アダム・パーカー氏は、米CNBCにこう述べ、投資家の困惑を代弁した。
ブラジル証券会社XPのストラテジスト、ラファエル・フィゲレード氏は「再びトランプ氏の関税発言に世界市場が注目している」と指摘。「今回の焦点はアジアと南アフリカ。だが同時に、トランプ氏は交渉の余地があるとも述べており、リスク選好度を測るうえでカギとなるのは為替の動きだ」との見方を示した。
国連も、関税措置の延期や新たな示唆が市場の不安定化を長引かせるとして、警戒を強めている。新たな対象国としてBRICS諸国が挙げられていることに対し、ブラジルのルーラ大統領は「内政干渉は容認しない」と強く反発した。
一方、欧州市場は、関税の発動が8月に先送りされたことで上昇。国際原油価格の上昇も追い風となった。欧州連合(EU)はこの日、ブルガリアが2026年1月1日からユーロ圏に正式参加することを正式に承認した。
ブラジル当局者の発言にも注目
国内では、財務相フェルナンド・ハダジ氏と中央銀行(BC)総裁のガブリエル・ガリーポロ氏の発言に注目が集まった。
ガリーポロ総裁は「金融政策の有効性を高めるためには、中央銀行が国民への情報発信力を高め、政策メッセージの伝達経路を改善することが不可欠だ」と述べ、広範な層へのコミュニケーション強化を訴えた。
一方、ハダジ財務相はトランプ氏の通商政策に対して「内政干渉」との批判を展開し、米国との二国間協議を進めていることを明かした。また、財政規律に関し「各国家機関が独自に歳出を拡大すれば、財政目標の達成は難しくなる」とも警告。議会との協調の重要性にも触れ、「一方が争いを望まなければ、争いは起こらない」と述べた。
鉄鉱石・石油関連が株価下支え 食品・小売に強弱
個別銘柄では、ヴァーレ(VALE3)が0.35%高、ペトロブラス(PETR4)が1.43%高と堅調。原油高を受けて石油関連のPRIO(PRIO3)は3.16%、Brava(BRAV3)は3.22%上昇した。
食品大手では、BRF(BRFS3)が臨時株主総会開催を巡る訴訟で勝訴し、1.93%上昇。合併相手のマーフリグ(MRFG3)も2.33%高だった。ミネルヴァ(BEEF3)は8.22%の大幅高となった。
一方で銀行株はまちまち。バンコ・ド・ブラジル(BBAS3)は0.27%安、イタウ・ウニバンコ(ITUB4)も0.24%下落。ブラデスコ(BBDC4)は0.24%高、サンタンデール(SANB11)は0.41%高だった。
小売株も明暗が分かれた。マガジン・ルイザ(MGLU3)は2.31%安、ロハス・ヘネール(LREN3)は0.10%高。5月の小売売上高が市場予想を下回り、高金利の影響がなお残る中、消費の回復力にはばらつきが見られる。
9日は主に米国の二次統計が予定されており、注目は米連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定会合の議事要旨(FOMC議事録)に移る。10日はサンパウロ市の祝日だが、証券取引所B3は今後、州や市の祝日では営業を継続するとしており、通常通り取引が行われる。
中銀総裁、システムの安全性を強調 C&M社へのサイバー攻撃で
ガブリエル・ガリーポロ中銀総裁は8日、金融機関向けに技術提供を行うC&Mソフトウェア社が受けたサイバー攻撃に関し、「中銀のシステムには影響がなく、完全な整合性が保たれている」と述べた。
この事件では、同社の従業員が外部の人物にパスワードを提供し、大量の不正送金が行われたとみられている。サンパウロ州警察は6月30日に発生したこの事件で、容疑者の逮捕と捜索を実施。影響を受けた企業のひとつ、BMP決済機関では、被害総額が5億4,100万レアル(約120億円)に上る可能性がある。
ガリーポロ氏は「今後も同様の攻撃が増える恐れがある」と警告し、中銀のサイバーセキュリティ体制の強化を訴えた。
ブラジル鉄鋼・アルミ輸出に最大15億ドルの損失懸念 トランプ関税復活で
米国による鉄鋼およびアルミニウム製品への輸入関税の復活により、ブラジルの対米輸出額は年内に最大15億ドル(約2,400億円)減少する可能性がある。ESPMビジネススクールの国際経済学教授、ジョルジ・フェレイラ氏が指摘した。
トランプ氏が6月4日から発動した最大50%の関税が、今年4〜6月の一時的な停止期間を除き、通年で適用された場合の推計である。BRICS諸国への10%の新関税が追加されれば、影響額はさらに増加する見込みだ。
ブラジルは、米国向け鉄鋼輸出国としては第2位の地位を占めており、打撃は大きい。
フェレイラ氏は「中国がブラジルの輸出先として代替となる可能性があるが、中国経済の減速が不安材料だ」と述べた。また、「輸出契約や先物価格の見直しがすでに始まっており、市場は短期決済型の契約に移行しつつある」と指摘した。
「トランプ関税は泡の銃弾」 実効性に疑問の声
香港の貿易企業HKTCのCEO、ダニエル・カセタリ氏は「トランプ氏の措置は『泡の銃弾』のように効果が薄い」と指摘。鉄鋼価格はむしろ上昇しており、市場は柔軟に対応していると分析した。
同氏は「米国内の産業界が中国からの輸入に依存している現実があり、トランプ氏も逆風にさらされている。関税政策は米国のインフレ圧力を高め、金利や資金調達コストの上昇を招く。結果的に輸出国は新たな市場を開拓し、米国は自ら孤立の道を選んでいる」との見解を示した。