ボルソナロ大統領の前に立ちはだかる男「シャンドン」

「ボルソナロ大統領の前に立ちはだかる男」
今、この人物のことがブラジル中で話題になっている。
「大統領選でボルソナロ氏より支持を得ているルーラ元大統領のことか?」
そうではない。最高裁判事のアレシャンドレ・デ・モラエス判事のことだ。
ボルソナロ氏とモラエス氏の反目は、コロナ禍中の2020年、ボルソナロ氏が社会的隔離政策を止め、国民に通常通りに働くよう、車によるデモ(カレアッタ)を呼びかけたときから始まる。
ボルソナロ氏の言動は世界中から「なんと非常識な!」と仰天されたが、国内ではモラエス判事が「コロナ対策の決定権は大統領でなく、州知事や市長にある」との判断を下し、ボルソナロ氏と対立関係となった。
モラエス判事はその後、最高裁の「フェイクニュース捜査」や「反民主主義的行為」の担当判事となり、熱心な大統領支持者である政治家や企業家、極右系ジャーナリストへ徹底した捜査を行った。
捜査ではボルソナロ派の下院議員ダニエル・シルヴェイラ氏などが逮捕され、ボルソナロ氏は激怒。昨年の独立記念日には支持者を煽ってモラエス氏を標的とする反最高裁デモを起こさせた。
今年の大統領選で劣勢にあるボルソナロ氏は、2020年の米国大統領選のトランプ氏を彷彿とさせるように選挙の不正を疑っている。9月7日の独立記念日には、21年1月6日に起こった米国議事堂襲撃のようなことが起こるのではないかとの憶測も飛んでいる。
そんな中、大統領選選挙高裁の長官にモラエス氏が就任するとの報せが発表された。選挙高裁長官就任のニュースが注目されることなど前代未聞なのだが、16日のモラエス氏の就任挨拶では場内から鳴り止まない拍手が沸き起こり、「ボルソナロの前に最強の敵が立ちはだかった」と対決ムードが更に煽られた。
それにしてもモラエス氏がここまでの存在になるとは思わなかった。同氏はテメル前大統領時代の法相で、その縁で最高裁判事に指名された。当初は「縁故人事か?」と言われ、その資質に疑問を持つ人も少なくなかった。
だが、いざ就任するや、スキンヘッドのいかつい風貌や、就任時に最年少判事だった若さの勢いも相まって、最高裁を強気にリードする存在へと成長。最高裁に強い剣幕で食ってかかるボルソナロ氏を逆にやり込める場面もたびたび見せてきた。
ボルソナロ派からは敵視されているものの、同判事を「偉大なるアレシャンドレ」と称える愛称「シャンドン」が今や社会に浸透しつつある。(陽)