薄まるクーデターへの緊迫感

大統領選1次投票まで10日を切った。今回の選挙では、ボルソナロ大統領が選挙結果を認めず、クーデターを起こすのではないかとの懸念が常に付きまとってきた。だが、その緊迫感も9月になって薄れたようにコラム子には思える。
2021年1月6日、米国大統領選での敗戦が認められないドナルド・トランプ氏は、支持者たちを煽って連邦議事堂を襲撃させたが、ボルソナロ大統領も同様の、もしくは軍を使ったそれ以上のクーデターを起こすのではないかと恐れられてきた。
緊迫感の薄まりは、7日の独立記念日から顕著になっている。独立記念日には全国で大統領支持者たちによるデモが行われたが、暴力沙汰が起こるどころか、デモ参加者も不入り。クーデター発生が最も恐れられていた日には、文字通り何も起こらなかった。
ボルソナロ陣営が放つ威圧感のようなものが前回2018年の選挙時に比べ、減じているようにコラム子には思える。ボルソナロ陣営は前回選挙時、テレビの選挙放送に頼らないネットだけのキャンペーンや討論会へ参加しないことで、ミステリアスなイメージを醸し出し、これまでのブラジルの歴史上にいないタイプの政治家として、新鮮かつ不気味な存在感を持っていた。
今年のボルソナロ氏のキャンペーンは、従来の政治家と同様の極めて正攻法なキャンペーンばかり。新鮮味や驚きはなく、ともすれば、策が尽きたように見えてしまう。
ボルソナロ氏が18日に行ったSBT局との取材の一件は、コラム子にボルソナロ陣営の存在感低下を強く印象付けた。
取材でボルソナロ氏は「自分に60%以上の票が入らなければ、その選挙は怪しい」と語ったのだが、メディアの多くがこの発言を受け流し、大きく扱わなかったのだ。
ボルソナロ氏の現在の支持率は60%どころか、30%を超えるほどしかない。それに引き換え、拒絶率は50%台に達しているから、同氏に60%以上の票が投じられるとは考えにくいのが現状だ。
メディアには「結局、選挙結果を認めたくないだけじゃないか」「大統領はもう負けを予感して最後の大言壮語を吐いているだけだ」「結局、口で脅すだけで何もおこせないのでは」との醒めた空気が流れ始めている。
ボルソナロ氏の発言が単なる大言壮語でないとすれば、状況を一変させるような秘策があるのかもしれない。気になるところだ。(陽)