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《記者コラム》パリ五輪=ブラジル女子選手の活躍で見えた=スポーツの理想の光景

2024年8月9日

レベッカ(Facebook)
レベッカ(Facebook)

 パリ五輪ももうすぐ終わるが、今大会ほどブラジルが盛り上がった大会もなかったように思う。盛り上がりの感触でいうと、自国開催だった2016年のリオ大会以上かもしれない。盛り上がり方も清々しく、好感を覚えるほどだ。
 その要因を作ったのは女子選手たちの想像以上の活躍だ。今大会は女子選手の活躍がよくクローズアップされた。柔道金メダリストのビア・ソウザ、スケートボードのライッサ・レアル、サッカー女子代表にバレー女子代表、そしてメダルを1人で4つも獲得した今大会のアイドル、女子体操のレベッカ・アンドラーデ。この盛り上がりは彼女たちの活躍あってのものだ。
 コラム子も今回のレベッカには競技での活躍を超えて、新鮮さを覚えた。レベッカは体操界のみならず世界の女性アスリートの最高峰とも言えるシモーネ・バイルズに対し互角の演技を披露した。そんなレベッカに対しブラジル人たちは、バイルズの活躍に強い嫉妬心を抱くほど熱心にレベッカを応援した。こうした光景はサッカー以外であまり見られず、強い驚きだった。
 だが、それ以上に「新時代の到来か」と思わせたのが、レベッカとバイルズの間にスポ根マンガ的な火花の散らし方が存在せず、互いが互いを深く尊敬しあっていたところだ。
 バイルズは個人種目最後の床の演技が終わった際、「今回はレベッカの勝ちね」と口走り、表彰台では3人の黒人選手が、国籍の違うレベッカに対し女王にひれ伏すポーズをとった。レベッカはそれを微笑ましく見守り、機転を利かせて両手を広げてガッツポーズで応えた。この光景にはこれからのスポーツ試合後の理想を見たようだった。
 ブラジル人たちのレベッカの誇り方もよかった。東京五輪の際、日本人選手が優勝するたび、「この選手と同じ国に生まれてよかった」などの大げさな愛国心アピールがネット上に大量に現れ、正直なところ違和感を覚えたが、レベッカに捧げられた賛辞は「グアルーリョスの誇り」だ。
 サンパウロ市郊外の街グアルーリョスの社会支援プロジェクトを受け、シングルマザーの7人兄弟で育った黒人の少女がつかんだ大きな夢。本来なら希望さえ見えないようなところから伝説の五輪選手が生まれた。一時の喜びで口にするだけの陳腐で実感のこもらない愛国心より、こうした生い立ちからのストーリーに根ざした物語の方がやはり夢がある。
 そして、そんなレベッカをはじめとした女性選手たちの連日の活躍をメディアやネットの社会が、男女の違いを超えて讃えあっている姿には好感を覚える。今大会は伯国の女性史にとっても大事な大会になった。(陽)


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