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《記者コラム》クジラからも重金属?=鉱滓ダム決壊の後遺症

2024年9月12日

 世界中を震撼させ、今も多くの人々にテロへの恐怖心を思い起こさせる世界貿易センタービル等襲撃事件から丸23年となる11日朝、2015年に起きたミナス州マリアナの鉱滓ダム決壊事故の後遺症ともいえる環境破壊が今も続いていることを示す記事を見た(11日付G1サイト(1)参照)。

クジラでも重金属汚染が起きていることや、災害は起こり続けているという言葉を報じる11日付G1サイトの記事の一部
クジラでも重金属汚染が起きていることや、災害は起こり続けているという言葉を報じる11日付G1サイトの記事の一部

 事故で流れ出した鉱滓に含まれていた重金属などが、巡り巡って、海岸近くに現れるクジラまでを毒していることが確認されたというのだ。
 サマルコ社のフンダン鉱滓ダム決壊事故は、19人の命を奪った上、ミナス州からエスピリトサント州に続くドセ川や大西洋を汚染した。ドセ川が死の川と化し、同川の魚を糧としていた先住民や漁師が困窮した上、川の水を灌漑用水として育てた野菜も食べられなくなった。同川の水を飲用にしていた人達は飲用水の不足にも直面した。海の生物もまた然りだ。
 事故から約9年経ち、地元の人や被災者以外は、伯国史上最悪の環境犯罪といわれたダム決壊事故のことを口にすることも減ったが、研究者達は、ドセ川や海の汚染後、動物にも金属による異常や腫瘍などが起きていると警告を発し、「災害は起こり続けている」と語っている。
 研究者達は水や堆積物、砂、泥、多種多様な動物のサンプルを解析。最初は、水や堆積物、植物プランクトンや動物プランクトンのような顕微鏡で観察するレベルの微細生物や食物連鎖の根幹にある動物だったが、時間と共に、食物連鎖でより上位の魚や鳥、カメ、ネズミイルカでの異常や問題を確認。今回はクジラにも影響が及んでいることが判明した。

鉱滓を含む泥水と海水との境目を通過する船(11日付G1サイトの記事の一部)
鉱滓を含む泥水と海水との境目を通過する船(11日付G1サイトの記事の一部)

 追跡研究で明らかになった影響には、川や海に住む海洋生物の汚染、異常や奇形を持つ種の誕生、腫瘍の発生などが含まれている。これまでに検出された金属は鉄、ニッケル、ヒ素、カドミウム、アルミニウムなど、15種類以上に及ぶ。
 食物連鎖の頂点ともいえるクジラでの影響は、エスピリトサント州の海岸に打ち上げられたクジラの生検で判明した。クジラの血に重金属が含まれていることが確認されたのだ。
 最新報告書では鳥などの高等生物では汚染の体内蓄積や濃縮が起きていることや、遺伝的多様性の喪失、健康上の影響も示している。
 災害前にはなかったが、災害後に確認された健康上の影響の一つはカメの結膜炎で、魚の場合もヒレの変形、消化器系の異常などが確認されている上、環境変化に敏感な在来種が減り、外来種が増えているという。
 音でコミュニケーションをとるネズミイルカの場合、水質悪化で、互いを見つけにくくなるといった影響も出ているという。
 研究者達は、生物多様性の保全と食の安全性確保のため、漁業の禁止区域を見直す必要も説いている。事故から約9年という時点で明らかになったクジラの汚染は、災害はまだ起こり続けている証拠に他ならない。
 現地ではまだ、被災者への賠償や環境修復作業の遅れが問題となっている。そうした中で行われた今回の報道は、被災者の痛みはまだ続き、災害は起こり続けていることを教え、人間のミスは広範囲かつ長期にわたる影響を与えることを思い起こさせてくれた。  (み)

(1)https://g1.globo.com/es/espirito-santo/norte-noroeste-es/noticia/2024/09/11/apos-9-anos-metais-do-desastre-de-mariana-chegam-as-baleias-no-litoral-desastre-continua-acontecendo-diz-pesquisador.ghtml


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