《記者コラム》強過ぎる人の持つ弱さ=慈悲を求めた女性司教

20日に米国で行われた大統領就任式で、前回よりも強い口調でLGBTの人々の存在を否定し、不法移民を強制的に送り返すと語ったトランプ氏。
第1期よりずっと激しい演説の後、国内外では様々な反応が起き、訴訟騒ぎにもなっている。そうした中、21日にワシントン国立大聖堂で大統領就任を祝うために行われた特別ミサでマリアン・エドガー・バッド司教の行った説教が注目を集めた。
就任を祝う特別ミサだけに、今後の働きへの祝福を求める祈りや励ましの説教を期待していたであろうトランプ夫妻。だが、セント・ジョンズ聖公会教会の女性司教マリアン氏はLGBTの人々や移民の間で恐怖心が広がっていることに言及し、「私達の国の民に対する慈悲の心を持つように」と求めた。
公の、それも大統領就任を祝うためのミサで、自分の主張に反する、LGBTの人々や移民への慈悲を求める説教を聞かされることになったトランプ氏。同氏は特別ミサ後、記者団に対して、「どう思いました? 感動的でしたか?」と感想を尋ね、「余り感動的ではなかったでしょう? 私には良いミサだとは思えませんでした。もっと良くできるはず」と語り、会場を去ったという。
トランプ氏はその後、自身のSNSに「火曜日朝の特別ミサで説教した司教はトランプを憎む過激な左翼だった」と投稿。ジョージア州選出の共和党下院議員のマイク・コリンズ氏も、説教のビデオクリップに「この説教をした人物は国外追放リストに加えられるべきだ」と添えて投稿したという。
だが、この説教は右翼か左翼かを問う問題でも新大統領に反旗を翻す行為でもなく、社会的に見て弱い立場にある人達の恐れ、おののく姿を知る聖職者が慈悲や憐れみを乞うたものとしか思えない。
トランプ氏は20日、「政府の認める性別は男性と女性しかない」と言ったが、身体の性と心の性の違いに悩み、苦しんでいるLGBTの人達には、自分がより自然だと感じる性に従って生きることは許されないのだろうか。二つの性しか認められない新大統領や支持者達は、彼らの悲しみや苦しみを理解し、寄り添う必要を感じないのだろうか。
移民の問題もまた然りだ。米国では伯国同様、そこで生まれた人に、親の国籍には関係なく、米国籍を与えている。例え、親が不法移民であってもだ。
だが、トランプ氏は、教会や学校、病院にいる移民達までを捕らえ、強制送還する許可を出した。生まれた時から米国籍を持つ子供達も親と共に送り返す姿勢には、複数州で訴訟も起きている。
国境地帯では強制的に送り返されて泣く人や、正式な書類がないために捕らえられ、米国で築いた僅かな資産も取り上げられてしまうことや、家族がバラバラになることを恐れる人が大勢いる。移民達が支えてきた産業があることなどを無視した政策は長続きするのだろうか?
バイデン氏は退任にあたり、弱い立場の人達に配慮することをトランプ氏に求めたと聞いたが、トランプ氏の言動にはその影響はかけらほどもない。
強い人は相手の弱さや痛みに気づけないことが多く、それが弱点となるが、それでは「全ての国民のための政治」は難しい。強過ぎる人はなおのこと、弱さや痛みを知る人を傍に置き、助言を仰ぐ位の謙虚さも欲しい。ボランティアで参加していたデイサービスのボランティア仲間が利用者になっているように、誰もが明日は弱者の立場に立ち得るのだから。(み)
(2)https://g1.globo.com/jornal-hoje/video/lideres-mundiais-reagem-aos-decretos-de-trump-13276517.ghtml