《記者コラム》「なすべきことをしただけ」=窓から落ちた犬救った女性

20日、サンパウロ大都市圏グアルーリョスで、アパートの最上階の窓から落ちた犬を段ボール箱で受け止めて救った女性がおり、話題となった。(1)
その時の様子を映したビデオはテレビやインターネットでも流れ、弊紙でも25日付ブラジル万華鏡コーナー(2)で扱った。概略だけを伝えると、まずアパートの住人たちが最上階の窓から落ちそうになっている犬に気づき叫び声をあげた。それに気づいたすぐ下の部屋に住む女性が、上階に走り、犬のいる部屋を訪ねたが住人がいなかったため、毛布をつかんで地上階まで走り、落ちた時のためにマットレスを作るよう管理人に頼むと、また自宅に戻り、子供達の服を入れた段ボール箱を窓から差し出して犬の落下に備えた。案の定、犬は力尽きて落ちたが、女性の段ボール箱にとらえられ、怪我もせずに済んだというものだ。
事件そのものは多くの人の目を引き、話題にもなったが、コラム子の心に残ったのは、その女性が「なすべきことをしただけ(Dever cumprido)」と語ったことだった。
犬が力尽きて落ちるまでの間に、上の階の人に知らせようと走っただけでなく、毛布を持って管理人の所まで走った後、段ボール箱を用意して自宅の窓から差し出して待つという判断の速さもさることながら、犬を無傷で救ったことを自慢せず、「なすべきことをしただけ」と語ったことが、人に仕え、他者を助けることを常としている人という印象を強く与えたのだ。
NHKの連続テレビ小説「おむすび」では、主人公の祖父が、水害で家も財産も失った男性から命だけはとりとめた子供を救うために金を貸して欲しいと頼まれるという話が出てきた。
祖父は妻に頼んで息子の大学進学用に蓄えてきた金を振り込ませたが、金は返してもらえなかった。祖父はそれが原因で息子と不仲になったが、息子がその男性を恨まないようにと願い、金の使途を話すなと妻に命じていた。
息子は自分のことを嫌っているから自分が使い込んだことにしておいて欲しいと頼まれた妻は、20年以上を経て、本人にではなく、孫の主人公に話す。主人公が父親に真実を告げたことで、父親の老いも感じていた息子が、父親が望んでいた「太陽の塔」を見に行くというところで26日の話は終わった。
だが、主人公の家は「他人が困っていたら助ける」という姿勢が家族の中に染み込んでいるという流れも汲むと、父親(主人公の祖父)の言動と親の思いを知らず、「何に使いこんだんだ」と親を責めた息子の気持ちも伝わってくるし、主人公の祖父が自分の行動を美化していないことが心に残る。(3)
似たような話は聖書(ルカの福音書)にもある。耕作か羊飼いをするしもべが仕事から帰って来ても、主人は「ここへ来て食事をしろ」とは言わず、かえって、「私の食事の用意をし、私の食事が済むまで給仕しなさい。あとで、自分の食事をしなさい」と言うだろうとある。さらに、言いつけられたことを全て行ったしもべにも、「なすべきことをしただけです」と言うようにとあるのだ。(4)
自分がやったことを声高に語り、人の注目を浴びたがる人もいるが、他者や他者の犬のために奔走しても何も誇らず、自分が責任を被り、「なすべきことをしただけ」と語れる人の姿。三つの話が一つとなり、静かな感動が広がるのを感じつつ、週の歩みを続けている。 (み)
(2)https://www.brasilnippou.com/2025/250225-111brasil.html 25日