アルゼンチン=ミレイ政権に贈収賄疑惑疑惑=妹カリーナ関与で市場動揺

アルゼンチンのハビエル・ミレイ政権は、医薬品購入を巡る贈収賄疑惑が、ミレイ氏の妹で大統領府事務総長を務めるカリーナ氏にも及んだことで、政治的危機に直面している。疑惑に絡む音声の流出が市場に動揺をもたらし、選挙を目前に控えた政府の信頼性に大打撃を与えている。政権はこれを野党の政治工作と断じて反撃に出ているが、政治・経済両面で不透明感が強まっていると25日付ヴァロール紙など(1)(2)(3)が報じた。
ミレイ大統領が「ボス」と呼んで絶大な信頼を寄せる妹カリーナ氏を巻き込んだ汚職スキャンダルは、足元のブエノスアイレス州選挙の2週間前、アルゼンチン議会選挙の2カ月前という最悪のタイミングで、政権が抱える脆弱性を剥き出しにした。
事件の発端は20日、国家障害者庁(ANDIS)に関する音声データが流出し、前長官ディエゴ・スパニョーロ氏の発言が地元メディアに報じられたことだ。その中で同氏は、カリーナ氏とその側近エドゥアルド・メネン氏が、医薬品購入契約に関して賄賂を要求していたと主張。音声では、製薬業界から最大8%の賄賂が支払われていたとされ、その一部がカリーナ氏にも流れていたと指摘されている。スパニョーロ氏はさらなる証拠として、カリーナ氏とのワッツアップのやり取りを保有していると明言した。
ANDISでは賄賂の取り決めが行われ、製薬会社は賄賂支払いにより政府との契約を確保。このスキームにより、月あたり50万~80万ドルの不正収益が発生していたとされる。疑惑浮上翌日、スパニョーロ氏は解任され、司法当局が関係者への捜索や現金押収を含む大規模捜査を開始。選挙を控えた政治状況もあり、ミレイ大統領には大きな痛手となる可能性が高い。
スパニョーロ氏の告発は、カリーナ氏が政治権限を駆使して製薬業界との取引に影響を与えていた可能性を示唆し、政権の透明性に疑念を投げかけている。政府側は疑惑を全面否定し、野党の政治的攻撃と反論。メネン氏は「不正は知らず、音声の真偽判断もできない」とし、疑惑を「粗雑な政治的操作」と一蹴した。
ミレイ大統領は、音声流出について直接のコメントは控える一方、24日にはカリーナ氏と共に式典に出席し、野党勢力の攻撃を強く批判。「123年続いた財政赤字を1カ月で解消した私が、2カ月間の攻撃で動揺するはずがない」と対決姿勢を鮮明にした。
エドゥアルド・メネン氏の従兄弟で、ミレイ大統領率いるリバタリアン党の有力メンバーでもあるマルティン・メネン下院議長も地元テレビ局に出演し、音声の出所を不明瞭とし、内容を「完全な虚偽」と断言。政権に近い幹部らは事態の沈静化に向けて奔走している。
政治的混乱は経済面にも波及。25日の金融市場では、アルゼンチンのドル建て国債が全面安となり、特に2035年償還の債券は1ドルあたり2セント以上下落、4月以降で最安水準を記録した。アルゼンチンペソも公式為替レートで約3%下落し、1ドル=1・362ペソで取引を終えた。
この市場の動揺について、地元証券会社ポルトフォリオ・ペルソナル・インベルシオネスのエコノミスト、ペドロ・セラーテ氏は「選挙を控えた時期であり、今回の汚職疑惑は非常に深刻だ」と指摘。通貨と債券市場の急落は政権への不信感を反映していると述べた。
一方、ルイス・カプト経済相は借入コストの上昇が短期的に経済活動に影響を与える可能性を認めつつも、「これは一時的な現象で、早期に正常化し、金利もすぐに望む水準に戻る」と述べ、選挙後の経済回復に期待を示した。
また、野党は先週、基礎的財政黒字を脅かす支出増の法案を相次いで可決した。これを受け、政府はペソ下落抑制のため、流動性規制を導入したが、商業銀行の間には懸念が広がっている。