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中銀デジタル通貨で方針変更=懸念も強まる中、来年導入へ

2025年8月28日

万華鏡1
デジタル通貨「Drex」のロゴ(Foto: Rafa Neddermeyer/Agência Brasil)

 ブラジル中銀(BC)が開発中のデジタル通貨「Drex(ドレックス)」について、当初計画していた許可型ブロックチェーンの採用を見送り、中央集権型アーキテクチャを採用する方針を明らかにした。民間企業によるトークン化や規制整備の促進にも寄与し、ブラジル金融市場に新たな変革をもたらすことが予測され、26年導入の見込みと7日付ヴァロール紙など(1)(2)が報じた。

 Drex導入プロジェクトは20年に始まり、最初は中銀デジタル通貨(CBDC)の可能性を探るための作業グループが設立。翌21年に基本的な開発方針が定められた。23年には初期テストが行われ、同年8月にはプロジェクト名が正式に「Drex」に決まった。第3段階のテストは今年後半に予定されており、担保としての資産利用の効率化に特に焦点をあてる予定だという。(3)

 BCがブロックチェーン技術の利用を断念したのは、分散型台帳(DLT)上でのプライバシー保護機能の実装が困難だったことが大きい。プロジェクトの初期段階でHyperledger Besu(エンタープライズ向けの許可型ブロックチェーンプラットフォーム)を用いた検証を実施したが、取引条件をコード化する柔軟性やシステム間の接続性を維持しながら、十分なプライバシーを確保することが難しかった。これまで複数の技術を試験したが、BCの要求水準を満たすものは存在しなかった。

 許可型ブロックチェーンの採用延期は、当初想定されていたプログラム可能なデジタルマネーの実現や、個人間信用取引、仲介者を介さない金融サービスの提供を遅らせることになる。だが、BC関係者は慎重な技術選択と段階的な導入によってプロジェクトの持続性と安定性を確保すると強調している。

 プロジェクトに参画する民間企業の中には、今回の方針転換に驚きを示す声もある。だが、その多くは、ブラジルにおけるトークン化市場自体は独自に成長しており、Drexの動向にかかわらず、今後も発展が続くとの見方を示している。

 経済的背景としては、Drexの導入がブラジルの金融包摂(貧困などにより取り残された人々が基本的な金融サービスへアクセスできるよう支援する)を加速させる可能性が高いと見られている。特に、Drexが提供するデジタル決済機能は、銀行口座を持たない数千万人のブラジル国民に新たな金融サービスへのアクセスを提供することが期待されており、その潜在的な市場規模は非常に大きいと予測されている。

 だが、政治的な障害も影響を与えている。近年、米国では政府や高官、中央銀行(FRB)など、関係者が軒並みCBDCへの明確な反対姿勢を示しており、こうした懸念がブラジル世論に影響を及ぼしている。ブラジル国内でもプライバシー侵害や政府による監視強化のリスクが指摘され、ブラジル政府の監視能力が強化されることに対する懸念が一部市民や政治家から上がっており、Drex導入にはその技術的な課題に加え、政治的な圧力も直面している。

 とはいえ、金融機関や関連企業の間では、今回の決定を「実務的で妥当な判断」と評価する声も多い。プロジェクトを段階的に推進しながら技術の成熟を待つことで、長期的な成功を目指すという方針に理解を示している。今後はトークン化や分散型金融の要素をどの段階で再度組み込むかが注目される。

 ガブリエル・ガリポロBC総裁は、Drexは厳密には従来のCBDCとは異なる性質を持つと述べている。同氏によれば、Drexの目的は通貨発行そのものを代替するのではなく、DLTを活用することで、信用供与の効率化や金融商品のアクセス向上を図る点にあるという。

 Drexはトークン化ネットワークとしての機能を重視しており、特に担保付き信用への活用を念頭に置いて設計されている。ユーザーが自らの保有資産を一元的に可視化・管理できる「スーパーアプリ」の構想も進められており、将来的には不動産や車両、株式などを一つのアプリ内で確認・担保設定できるようになる見通しだ。(4)

 


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