米「自主送還」の実態は強制=ブラジル人帰国者が驚きの訴え

トランプ政権下で実施中の「自主送還プログラム(Project Homecoming)」を通じて、米国から送還された複数のブラジル人が、実際には強制的に出国させられたと訴えている。拘留中の劣悪な環境や人権侵害も報告されており、米政府の送還政策とその運用実態に対して懸念の声が広がっていると8月30日付フォーリャ紙(1)が報じた。
米国土安全保障省(DHS)が今年5月に導入した「自主送還プログラム」は、米国内に滞在する不法移民の迅速な退去を目的とし、制度上は対象者自らの意思で出国申請を行うことで、航空券の無料提供や1千ドル(約20万円)の支給、出国時に家族と再会できるなどの特典が設けられている。帰国後も将来的に合法的に米国へ再入国できる資格を維持することが可能とされている。
だが送還されたブラジル人の多くは、自発的な出国ではなく、実質的に強制的な退去を余儀なくされたと主張。拘留施設の劣悪な環境や非人道的な扱いも報告されている。
8月27日午後6時13分にミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンテ国際空港に到着した送還便に乗っていた複数のブラジル人は、到着時に拘留施設で使用していた制服を着用し、わずかな所持品が入った袋のみを持っていた。彼らの多くは書類を持っておらず、到着後30分以内に空港のゲートを通過したという。出迎えた国連職員やブラジル人権省の担当者は、彼らの置かれていた劣悪な状況に驚きを隠せなかった。
米政府より委託を受けて送還便を運航したゴル航空は、あくまで自主送還者の輸送に限定されていると説明。だが搭乗者の証言によれば、彼らは数カ月も米国内で拘束されており、出国する意思のある人は1人もいなかったという。彼らは機内搭乗時に米国移民税関取締局(ICE)の職員から手錠を外された後、自主退去の同意書に署名するよう強制されたと証言している。
在ブラジル米国大使館は、「米国は移民法違反者を送還しており、送還便は安全かつ尊重をもって運航されている」と声明を発表したが、虐待に関する質問には回答を避け、「違法滞在者が専用アプリを通じて自主退去を申請した場合、渡航費や1千ドルの奨励金、出国時の家族との再会が可能であり、帰国後も米国への合法的な再入国資格を維持できる」と強調した。
送還者の1人、エリヴェルトン・ナタリーノ・ダ・シルヴァさんは、20年以上家族とともに米国に居住していたが、6月6日に突然拘束された。彼には永住者や一時就労者に必要な社会保障番号があり、永住権の更新申請も承認されていた。家族の弁護士が送還差し止めの訴えを起こしたが認められず、3度の送還未遂の後、非公然の形で自主送還便に搭乗させられた。家族はシルヴァさんの所在を把握できず、状況が明らかになることを待ち望んでいたという。彼の妻と娘2人は米国に残り、離れ離れになった。
別の送還者カルロス・ファグンデスさんは、拘束期間中に勾留施設8カ所を転々としたが、常に手錠をかけられたまま移送され、食事や水も十分に与えられなかったと述べている。拘留施設にはブラジル人が押し込められ、立つこともできず、長期間にわたり入浴や歯磨きもままならない劣悪な環境に置かれていたと証言。「帰国便は午前6時に出発し、真夜中まで約20時間、飲まず食わずで過ごした。米国にはもう法律はない。移民法さえも」と訴えた。
送還者の一部は、1千ドルの奨励金を受け取るための手続きに必要なパスポートを持っておらず、帰国後の給付受け取りに困難を抱えている。到着した空港では、受給方法を探して奔走する者や、残った米ドルをレアル通貨に換金しようとする人の姿も見られた。制度上は「自主的な帰国」を建前とする本プログラムだが、その実態との乖離が一層浮き彫りとなっている。