【17日の市況】イボベスパ指数は前日比0.30%安の13万8,840.02ポイント=バーレ社やウジミナスの下落に加え、中東情勢の緊迫で市場心理悪化
ブラジル株式市場は17日、前日の大幅反発から一転して反落した。サンパウロ証券取引所の代表的株価指数であるイボベスパ指数は前日比0.30%安の13万8,840.02ポイントで取引を終えた。下げ幅は415.89ポイントとなる。一方、外国為替市場ではレアル安が進行し、ドル相場は0.23%上昇して1ドル=5.498レアルとなった。金利先物市場でも全ゾーンで金利が上昇する展開となった。
中東情勢の緊迫が市場に波及
市場関係者の間では、イスラエルとイラン間の軍事的緊張が「局地的な範囲にとどまるか否か」という単純な見方では捉えきれないとの警戒感が広がっている。米国のトランプ大統領は「現時点ではイランの最高指導者を殺害しない」と発言したものの、市場ではむしろこれが暗黙の脅威と受け止められた。大統領はイランに対し「無条件降伏」を要求。さらに米国は中東地域に戦闘機部隊を派遣した。
こうした情勢を受け、欧米市場では株価が軒並み下落。国際原油価格は一時4%以上急騰した。イランが支配するホルムズ海峡の安全保障リスクも高まっており、今後の原油市場への影響が懸念されている。
FOMC会合と米経済指標
米連邦準備理事会(FRB)は17日から公開市場委員会(FOMC)を開催しており、18日に政策金利の発表が予定されている。市場では据え置きの見方が大勢だが、インフレ再燃リスクや中東情勢が不透明感を増している。
加えて、米国の5月小売売上高が市場予想を大幅に下回る減少を記録。これを受けて9月の利下げ観測が一段と強まった。「個人消費は第2四半期も低調が続くと見られるが、基調的な消費は依然底堅い」と、ASAのエコノミスト、アンドレッサ・ドゥラン氏は分析する。一方で、同日に発表された米国の鉱工業生産も5月に減少し、米経済への先行き不安が広がった。
国内政治の不透明感
国内では、前日連邦政府が議会で予想外の敗北を喫したことも投資家心理の重石となった。ブラジル下院では、政府が発表したIOF(金融取引税)引き上げに反対する法案が「社会からの明確な要請」として緊急審議入りが認められた。必要数257票を大きく上回る346票が賛成に回り、反対はわずか97票にとどまった。
現在、ルーラ大統領はカナダで開催中のG7サミットに出席中で、財務相のフェルナンド・アダジ氏も休暇中。首都ブラジリアでは政権中枢が手薄な状況となっており、議会運営への対応遅れも指摘されている。背景には、今年に入り議員向け予算(エメンダ)の執行が例年より低調であることも影響しているとされる。
バーレ社急落、ペトロブラスは下支えも限定的
株式市場では、指数寄与度の大きいバーレ(VALE3)が前日比4.50%安と大幅下落し、相場全体を押し下げた。前日は堅調だっただけに利益確定売りが出た模様だ。
一方、国際原油高を受けペトロブラス(PETR4)が2.27%高と買われ、下支えする場面もあったが、上昇幅は限定的だった。銀行株も一部で支え役となり、ブラデスコ(BBDC4)が1.50%高、イタウ・ウニバンコ(ITUB4)が0.60%高となった。ただし、バンコ・ド・ブラジル(BBAS3)は0.36%下落した。
また、独立系石油会社PRIO(PRIO3)は1.97%高、電力株のネオエネルジア(NEOE3)も買収提案報道を受けて1.17%高。防衛関連のエンブラエル(EMBR3)も欧州市場での受注期待から0.16%高となった。
さらに、ウジミナス(USIM5)は6.90%安と急落。コスト上昇などを理由に証券会社が投資格付けを引き下げたことが背景だ。このほか、BRF(BRFS3)とマーフリグ(MRFG3)は、両社の合併に関する株主総会が延期されたとの報道を受け、それぞれ0.05%安、2.40%安と売られた。
金融政策への警戒感続く
18日には中央銀行の金融政策委員会(Copom)の政策金利発表も控えており、引き続き市場の不透明感は強い。政策金利(Selic)の14.75%据え置き観測が優勢だが、15%への利上げを予想する声も根強く、アナリスト間で見解が分かれている。
市場関係者は「地政学リスク、米国の金融政策、国内政治の不透明感、すべてが交錯する“スーパー・ウエンズデー”になる」として、18日の結果に注目している。
ブラジル、政府効率性で世界ワースト2位 ベネズエラに次ぐ
スイスのビジネススクール、国際経営開発研究所(IMD)が発表した「世界競争力ランキング2025年版」で、ブラジルは「政府効率性」の分野でワースト2位となった。対象となった69カ国中、ブラジルは68位で、最下位のベネズエラに次ぐ位置となった。上位にはスイス、シンガポール、香港が並んだ。
同ランキングは、IMDがブラジルのビジネススクール、ドン・カブラル財団(FDC)と協力して作成。政府効率性に加え、インフラ、企業効率性、経済パフォーマンスなど複数の指標で国ごとの競争力を評価している。
全体順位では、ブラジルは前年の62位から58位に上昇し、4ランク改善した。しかし「政府効率性」部門では、資本コスト(69位)、貿易保護主義(68位)、財政状況、雇用に関する労働法制、政策の柔軟性(いずれも67位)など、多くの項目で下位に沈んだ。
FDCのイノベーション・デジタル技術部門責任者であるウーゴ・タデウ氏は「政府の支出は大きいが、その経済活動や社会的利益への実効性についての精査が必要だ」と指摘する。
INSS不正割引を巡りCPMI設置へ アルコルンブレ上院議長が手続き開始
ブラジル連邦議会のダヴィ・アルコルンブレ上院議長(中道右派・連合ブラジル党、アマパ州選出)は6月17日、INSS(国家社会保障院)の給付に対する不正な割引を調査するための「INSS割引CPMI(上下院合同議会調査委員会)」設置要求書を本会議で読み上げた。これにより、同委員会設置手続きが正式に始動する。
要求書は野党のダマレス・アウヴェス上院議員(共和党)とフェルナンダ・コロネル下院議員(自由党)が提出。今後、各会派が委員15人と補欠議員を指名し、委員会が構成される。
政府側は、委員会運営を掌握するため、オマール・アジス上院議員(社会民主党、アマゾナス州)を委員長に据え、与党系下院議員が報告役を務める案を模索している。委員会の活動期間は180日、予算は20万レアルが計上されている。
本来、5月末に要求書の読み上げが予定されていたが、アルコルンブレ議長は採決を先送りし、政権側に調整の時間を与えていたとみられる。
政府与党内でも分裂 「連合ブラジル」が最多の署名
委員会設置に向けた署名活動では、ルーラ政権に閣僚を出す与党内からも多数の賛同があった。下院での署名223人中、半数超の113人が与党所属議員で、中でも「連合ブラジル」が最多の35人。以下、進歩党(PP)23人、共和党20人、社会民主党(PSD)17人、ブラジル民主運動(MDB)14人、ブラジル社会党(PSB)4人が続く。
上院でも52%が与党系議員で、PP(5人)、共和党と連合ブラジル(各4人)、PSD(3人)、PSB(2人)、MDB(1人)と広がった。
被害総額は60億レアル超 「割引なし作戦」で不正発覚
今回の調査対象となるのは、INSSの年金や退職給付からの不正割引。4月に連邦警察と連邦監査庁(CGU)が実施した「割引なし作戦(Operação Sem Desconto)」で明るみに出た。調査によると、労働組合や各種団体が受給者の同意なしに割引を行い、被害額は60億レアル(約1,200億円)超に達するという。
なお、こうした不正はボルソナロ前政権時代に始まったものだが、被害額が最も膨らんだのは2023年、ルーラ政権第3期目の初年だった。
BPC・ボルサファミリア関連の議会審議も延期 政府が政治的リスク回避へ
社会支援制度を巡る政治リスクも高まる中、ルーラ政権は「BPC(継続的給付金)」と「ボルサファミリア(家族手当)」に関する大統領拒否権(Veto 46/2024)の審議を延期することに成功した。
同拒否権は、政府による財政調整策の一環で2024年末に議会で可決された法案に対し、今年初めにルーラ大統領が行使したもの。具体的には、BPCの支給条件に中等度以上の障害証明を義務付ける条項や、ボルサファミリアの再登録条件に関する条文の撤回が含まれている。
プラナルト宮(大統領府)は、社会的反発や法的リスクを避けるため、アルコルンブレ議長と連携して議会での審議を先送り。特に2026年の大統領選に向けて、社会保障分野での政治的ダメージを回避する狙いがあるとみられる。
議会内では、万一拒否権が覆されれば、政権にとって大きな敗北になるとの見方が広がっている。