《記者コラム》もはや「ラドロン」の蔑称は意味をなさず

「これでもう保守派は汚職を左派への攻撃材料にはできなくなったな」。この2週間ほどのボルソナロ前大統領の汚職疑惑に対する連邦警察の報告書や公開証拠を見てそう思った。
「綺麗事を言っておいて、裏では国民から大金を盗んでいる」。これが2014年にラヴァ・ジャット作戦が始まった頃の労働者党(PT)に対する保守派の主な攻撃方法だった。こうした主張がPTへの不信感を高め、政権を追いやり、2018年のボルソナロ氏の大統領当選に繋がった。
選挙当時、下議だったボルソナロ氏には少なくとも汚職関係での捜査記録はなく、支持者はボルソナロ氏に「言動は頑固で古風だが清廉潔白」とのイメージを抱いていた。だが、同氏の大統領任期の4年間でその信頼はだいぶ揺らいでしまった。
ラヴァ・ジャット作戦は、司法取引の内容の強引さや、司法と検察の癒着などの問題が浮上。これにより実刑を受けていたルーラ氏が釈放され、さらには大統領として復活した。
その一方でボルソナロ氏には、長男フラヴィオ氏にラシャジーニャ疑惑(幽霊職員から給与のほぼ全額を返金させていた疑い)、一家全体に所有不動産の不自然な急増疑惑などが浮上したことで、2018年以前のクリーンなイメージはなくなってしまった。
それでもボルソナロ氏の支持者は、2022年の大統領選の際、ルーラ氏に対して「ラドロン(大泥棒)」との蔑称を使い、反ルーラ、反PTの心意気を共有しているようだった。
だが、今回の連警捜査の進展で「ラドロン」や「コルプソン(腐敗)」などという言葉を使い続けることがもはや自己矛盾でしかないことが明らかになってしまった。
ボルソナロ氏には現在、サウジアラビアやバーレーンといった中東の国から贈呈された高級時計を米国で転売した疑惑が掛かっている。
疑惑が事実だとしたら文字通りの泥棒的行為となる。連警が公開したワッツアップの連絡記録の中には、米国で時計を転売する際に大統領元側近のマウロ・シジ氏がボルソナロ氏に許可を求め、「セルヴァ」という「OK」を意味する軍隊用語で答えた記録が残されていた。
これが判明した直後、SNS上ではこれまで以上にボルソナロ氏を「ラドロン」と呼び返す左派の投稿が目立った。
さらに、ブラジル情報庁によるスパイ疑惑の捜査で見つかった会議の録音記録で、ボルソナロ氏がフラヴィオ氏に関し「一番悪いのはあいつ」とラシャジーニャ疑惑を認めるような発言も見つかっている。
当コラムで以前にもこの指摘は行ったが、保守派は今後、スキャンダルによる足の引っ張り合いではなく、政策論争での勝負に切り替えたほうが良いと改めて思う。(陽)
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