《記者コラム》ロック・イン・リオ=不評の背景に何が?

現在、ブラジルではロック・イン・リオが開催されている。毎度おなじみの不規則な2週間開催で、先週が金曜から日曜、今週が木曜から日曜の計7日間で行われている。
今年のロック・イン・リオだが、例年以上に出演ラインナップへの苦情が多い。「ロックという割にロックが少ない」という苦情は、現在のように隔年開催が決まった2011年からずっと言われている。だが、今年の苦情は、これまでに聞いたことがない類のものになっている。
多くの苦情が寄せられている問題は2つあり、1つめは初日に米国のラッパー、トラヴィス・スコットをトリにしたことだ。彼はヒップホップのラッパーなのだが、彼が牽引する派生ジャンル「トラップ」のウケが、少し年配のロック、ヒップホップ、双方のファンから悪いのだ。
トラップは重低音を使ったリズムと、やや機械的に聞こえるラップが持ち味の音楽で、米国では数年前までかなりの人気を博した。米国の流行から少し遅れてブラジルの若者の間でもファンキの流れから取り入れられ流行し、今が絶頂期にある。
コラム子は米国の流行を直接追っているので、猫も杓子も皆トラップをやった挙句に飽きられた経緯を見ている。だから今回の件についても「なんで今頃トラップ?」との疑問は持った。だが、寄せられている不満の声の内容を見るとどうやらブラジルの人たちはトラップという音楽そのものが嫌いで仕方がないようだ。確かにトラップはメロディ的な抑揚がつけにくく、画一的に聞こえる側面がある。バンド演奏もできないので、そうした点でブラジルには馴染めない人が多いのだろう。
2つ目の問題は、「ブラジルのカントリー」こと、セルタネージャ起用に関するものだ。これまで、国内で最も人気の音楽ながらロック・イン・リオには取り入れられてこなかった。今年は開催6日目、21日に人気セルタネージャアーティストが出演することが決まっている。
セルタネージャ起用に苦情が多いのは政治的な問題だろう。ロックファンというのは概して保守性を嫌う。セルタネージャは保守的な価値観を愛する人たちの間で人気の音楽だ。セルタネージャアーティスト全員が保守派ということはないから、ロックに合いそうな人だけ出演させれば問題にはならなかっただろうと思う。
うるさいファンがフェスに注文をつけることは、フェスへの熱い想いの表れであり、内容の改善につながる良いことであると思う。だが、ブラジルを代表するもう一つの大ロックイベント「ロラパルーザ」に対して飛び交っている来年のラインナップ批判の内容には首をかしげさせられている。
「ロックが少なくなった」との不満はここでも唱えられ、同フェスのトリを務めることになった21歳の女性ロック歌手、オリヴィア・ロドリゴが批判の的となっている。だが、コラム子に言わせれば不満の主たちは彼女を一方的にアイドルと誤解している。さらに言えば、ラインナップに不満を抱いている多くの人は、注目に値する若手バンドのことなどほとんど知らない。彼らはただ古株のビッグネームを求めているだけだ。異議申し立てをするなら、その分、自分の感性も磨くべきだ。(陽)