《記者コラム》「アインダ・エストウ・アキ」=運も味方したオスカー・ノミネート

ブラジル映画「アインダ・エストウ・アキ」がアカデミー賞(オスカー)作品賞、主演女優賞、国際長編映画賞の3部門にノミネートされたことはブラジルの1月のビッグ・ニュースだった。それもそうだろう。今やブラジル映画の代名詞として語られる、かの「シティ・オブ・ゴッド」でさえ、4部門にノミネートされたが、最大賞である作品賞、役者部門にはノミネートされなかった。ノミネートされた部門での目立ち方、インパクトが違う。
今回のオスカー・ノミネートという快挙には、作品の内容もさることながら、神がかり的な「時の運」の後押しもあった。その始まりとなったのはフェルナンダ・トーレスのゴールデン・グローブ賞(GG)における主演女優賞受賞だった。
GG主演女優賞は、オスカーの5人候補制と異なり、ドラマ部門とミュージカルコメディ部門の2つから6人ずつ、12人がノミネートされる。通常ならフェルナンダのノミネートされたドラマ部門にオスカー有力候補が集中する傾向があるのだが、今年はなぜか、コメディ部門に集中した。実際、オスカーにノミネートされたフェルナンダ以外の4人の候補はすべて、コメディ部門にノミネートされていた。
つまり、フェルナンダはGGではレベルの低い方のグループに属していたわけだが、とはいえ、他の候補も強烈な面々だ。ニコール・キッドマン、アンジェリーナ・ジョリー、ケイト・ウインスレット、ティルダ・スウィントン。オスカー受賞経験のあるこの4人に、有名なゴシップ女優のパメラ・アンダーソン。知名度ではフェルナンダが圧倒的に不利だった。
しかし、そこを大番狂わせでフェルナンダが勝利。全米中でテレビ中継もされた場でのこのサプライズ。「あの人は一体、誰?」と、たちまち彼女に関心が集まった。
この勝利が「アインダ〜」のキャンペーン・チームに勢いをつけた。全米での同作の公開は1月半ばからだったが、GGの勝利ではるかに宣伝しやすくなった。そして、そこにハリウッドでの山火事が重なった。山火事によってハリウッドの映画人たちのノミネートの投票が先送りされ、当初17日にノミネート発表のところが23日に伸ばされた。これも急に注目を浴びた「アインダ〜」の宣伝活動の延長には好都合だった。その結果、同作は「非英語作品」が対象の国際長編映画賞のみならず、英語作品ばかりが並ぶ作品賞にまでノミネートされるに至った。
これらの幸運が重なりながら、キャンペーンが終わり、全米公開が始まった頃、同国の有名映画レビューサイト「ロッテン・トマトーズ」での「アインダ〜」の鑑賞者満足度は、95点という、驚きの高得点にまで達していた。(陽)