《記者コラム》暴行事件に怯える市民=自転車愛好家や女医被害

サンパウロ市南部パライゾポリスで18日、バイクを使った強盗団の首領と目され、「マイーニャ・ド・クリーメ(小さな犯罪ママ)」という通称を持つスエジナ・バルボーザ・カルネイロ容疑者(41歳)が逮捕された。(1)(2)(3)
同容疑者はピザなどの宅配アプリの配達人を装って強盗を行う者に武器やバイクなどを貸し出し、盗品の買い取りや転売を行っていた。
武器などを借りた強盗犯は13日にサンパウロ市南部のイタイン・ビビ地区で起きた自転車愛好家のヴィトル・メドラド氏(46歳)殺害事件や1月に起きた市警のジョゼニルド・デ・モウラ・ジュニオル氏銃殺事件などのように、街をバイクで巡回し、獲物を見つけると容赦なく襲い、携帯電話などを奪う事件を起こしていると見られている。
彼女の自宅からは銃3丁とアプリの配達人を装うためのカバンやヘルメット及びその他の品、電子機器、盗品の携帯電話15台などと現金7280レが押収されたが、強盗や殺人の実行犯はまだ逮捕されていない。
彼女は22年3月にも携帯電話や宝石類などの盗品買い取りや武器などの保管を行っているという顧客からの通報などで逮捕されており、同年6月には10年半の実刑と罰金という判決も受けたが、今回の逮捕で、犯罪者らへの機材貸し出しや盗品による返済という条件の金の貸付などを続けていたことが判明した。
ヴィトル氏の事件は、立ち木の傍で自転車を停め、携帯電話で話しているのを見かけた2人組がバイクで折り返して来て、相乗りしていた男が同氏の脇に停車すると同時にバイクを降りて発砲。同氏が取り落とした携帯電話を奪うとそのまま逃走した。同日には、同じバイクに乗る2人組から男性が銃撃を受け、バイクごと倒れ、乗用車に轢かれる事件も起きている。男性は命に別状はないという。
警察は押収した銃が続く二つの事件で使われたものか確認する予定だが、白昼の強盗殺人事件や強盗未遂事件は自転車愛好家らの抗議行動を引き起こし、州保安局に治安強化の必要を再認識させた。
それでもバイクで被害者に近づき、物品を奪う事件は後を絶たない。15日未明にはサンパウロ市西部で、強盗被害を恐れ、財布や携帯電話も持たずに日課のジョギングに出た67歳の女医が、バイクの2人組に襲われる事件が発生。女医は指輪を出せと言われたので外そうとしたが、思うように外れなかったため、指に噛みつかれたり、背中を蹴ったりされ、骨折や肺挫傷を伴う重傷で集中治療室に入院することとなった。「助けて」「外れないの、ちょっと待って」「暴力はやめて」という女医の言葉を聞こうともせず暴行を繰り返した賊達は、誰かが来るのに気づき、何も取らずに逃げたが、トラウマに陥った女医は、退院後は日課を変えるつもりだという。(4)(5)

金品や命、平和な日常を奪われた人達やそれを知る人々にとり、犯罪者達を後方支援していた女性逮捕は懸念材料の一つが取り除かれただけに過ぎず、枕を高くして眠れない状況は終わらない。
ヴィトル氏や女医の事件後、今まで通りに外出できなくなった人も少なくないだろう。パンデミックで引きこもっていた人がやっと外出できるようになったら、暴行、殺人が市民の自由な行動を妨げる。アプリのタクシーを呼んで出かけ、必要なものはアプリで配達してもらう生活は便利かも知れないが、種々の歪みが正されない限り、心や体の傷は残るし、安寧な社会や平和な日常も戻ってこない。(み)