《記者コラム》ザンベッリ氏を「迫害された政治犯」として受け入れる国は?

この人を「迫害された政治犯」として真面目に引き受ける国は果たしてあるのだろうか――。3日にブラジルを出国していたことが判明したカルラ・ザンベッリ下議の事を考えるに、そう思わずにはいられない。
ブラジルの極右、保守派政治家、政治活動家の間では、最高裁のアレッシャンドレ・デ・モラエス判事と自身がいかに対立し、政治的迫害を受けているかをアピールするのが一つの流行りのようになってきている。
今回のザンベッリ氏の国外脱出も、ボルソナロ前大統領三男のエドゥアルド下議が今行っている行動にあからさまに倣ったように見える。外交が絡めばきっと自分たちの主張もわかってもらえるとの楽観的な観測があるのだろう。
だが、ザンベッリ氏の場合、裁判内容が国内でも笑い話にされているような話だ。もしそれを外国の人が知った場合、失笑ものになってしまうような気がしてならない。
そうした印象を決定づけているのは、やはり2022年10月、大統領選決選投票前日にサンパウロ市で自分に野次を飛ばした男性を銃で追い回したことに尽きる。この日は銃の携行が選挙高裁から禁止されていた。いや、仮にその指令が出ていなくても、野次を飛ばされたからといって土曜の昼間の閑静な住宅街で、武器も持っていない相手を銃で脅して追い回すなど、政治家はおろか、一般人がやったとしても奇異だ。
しかも彼女の場合、この姿が全国のお茶の間にさらされてしまった。その影響は彼女が選挙スタッフを務めていたボルソナロ氏にも響き、同氏は落選。同氏落選の大きな理由の一つとして今日まで語られ続けている。
そして、この件での裁判判決以上に重い刑を受けているのが、全国法務審議会のコンピューターへのハッキングだ。コンピューターをハッキングして行ったことはモラエス判事に対する虚偽の逮捕状混入。程度としては水鉄砲で人を脅すような子供じみた幼稚な行為だが、これで彼女は10年の実刑判決を受けてしまっている。
そうした背景から、同じ下院議員でクーデター計画疑惑で被告となっているアレッシャンドレ・ラマジェン氏を助けようとするボルソナロ派議員はいるが、ザンベッリ氏を助けようとする動きは起こっていない。仲間の議員たちも冷静にザンベッリ氏を擁護しようとしても、この2つの事件のことを思い出したら、思わず吹き出してしまいそうになってしまうのではないだろうか。
ザンベッリ氏への印象は外国でも同様で、二重国籍を生かしてイタリアに逃げ込もうとしたが、同国の政治家たちがザンベッリ氏の入国を拒否し、ブラジルへの身柄移送を求めている。
残るはトランプ政権下の米国くらいだが、果たして米国はザンベッリ氏を迫害の被害者として受け入れるか。(陽)