《記者コラム》バンドで歌う日本の歌=今年も盛況の全伯歌謡唱歌コン

8日(日)、サンパウロ市の宮城県人会館で全伯歌謡唱歌コンクール(以下、全伯)が行われ、143人の歌手が三つのバンドの演奏で日本の歌を歌った。毎年この時期に開催される全伯だが、今年は70回目の節目の大会。いつも以上の思いで迎えた人も多かったはずだ。
バンドは舞台の上に一つ、舞台の前に二つの計三つが配置されている。生演奏のため、多少のミスはご愛敬。いつも同じ伴奏で演奏ミスもなく歌えるカラオケとは様々な違いがある。カラオケで歌い慣れた曲でも舞台上では演奏が十分に聞き取れず、イントロ中に「あれ?」と首を傾げている内に歌に入り損なったりという、冷や汗事件も起こり得る。
だが、バンド演奏によってアドレナリンの分泌量が増すのか、普段より声が出たとか、気持ちよく歌えたという声も良く聞く。
出演バンドは、バンド規模や使える楽器の種類、数に合わせて楽譜を作成し、歌手の声にあわせて変調も行い、個人や全体練習で準備を整えた。歌手は録音したバンドの演奏やカラオケで練習を重ねた。音響や食事の手配、接待などを担当するスタッフたちも含め、参加者が互いを信頼し、協力し合ってこそ実現する大会だと改めて実感するひとときだった。
昔はカラオケなぞなく、全ての歌唱コンクールはバンド演奏だった。現在はカラオケが普及して久しく、カラオケの指導者やカラオケ大会で審査員を務めている先生方でもその頃を知らない人がいそうだが、バンド演奏で歌うことや練習や本番での人との交わりが好きな人の中には、年に1度の大会をたまにしか会えない友人や知人と出会える場として楽しんでいる人も多い。
今回は、AVC(脳卒中)で緊急入院を経験した広瀬秀雄氏も車椅子で会場に現れ、多くの人々をほっとさせた。広瀬氏はカラオケの指導や審査だけでなく、音楽家、俳句の選者などとしても活躍しており、現在はリハビリ中だ。
あるバンドのメンバー(複数)から、新聞社にも取材を頼んだが、佳子さま来伯で手が回らず、記者を派遣できないと言われたとも聞き、苦笑。記事にはならないがコラムでなら書けると考え、友人がフェイスブックに掲載した写真の一部を使うことの許可ももらった。
日伯修好130周年の記念の年に70回目だし、コロナ禍で開催できなかった年もあるから、日系社会(コロニア)の中でもそれなりに長い歴史を持つ全伯。規模は決して大きくないし、サンパウロとその近郊の人しか参加できなくても、歴史を守り続けている人達がおり、子供達まで取り込みながら、歩みを重ねていることの大切さも教えてくれる大会が、日本の歌や文化を伝え、人と人が出会う場所として、これからも地道な歩みを積み重ねてくれることを心から願いつつ。(み)
