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《記者コラム》五輪選手にも皮肉エラー?=言葉やイメージが持つ力

2024年8月1日

体操女子団体でブラジル初のメダルを獲得した選手達(ブラジル選手団の公式Ⅹより)
体操女子団体でブラジル初のメダルを獲得した選手達(ブラジル選手団の公式Ⅹより)

 パリ五輪で女子の体操チームが団体戦で3位となり、ブラジル初のメダルを獲得と報じる記事の中に、二つ目の平均台で最初の選手が落下し、他の選手二人もバランスを崩したとあるのを見て、「五輪選手にも『皮肉エラー』はあるのだな~」と改めて感じた。

 「皮肉エラー」とは、球技の選手が打ってはいけないエリアを意識し過ぎ、そのエリアにボールを打ってしまうというタイプのミスだ。そのエリアを避けようとし過ぎ、目標外にボールが行ってしまった時は「過補償エラー」と呼ぶ。
 サッカーのペナルティキックならば、キーパーの真正面に蹴ってしまうのが皮肉エラー、ゴール枠外に蹴ってしまうのが過補償エラーだ。複雑な技や動きを無意識かつ自然に行うハイレベルの選手でも、プレッシャーなどで緊張し、初心者のように動作を丁寧に再現しようとすることで起こるという。
 実は、団体戦決勝が行われた7月30日は、準エースのフラヴィアが演技開始前の練習中に平均台から落ち、出血を伴うケガをし、絆創膏を貼って最後まで演技をした日だ。
 平均台が得意なフラヴィアのケガが、「落ちてはいけない」「失敗してはならない」というプレッシャーとなり、落下やバランスを崩す事態を招いた可能性は十分ある。
 同日夜、平均台から落ちた選手の演技を見ていて、米国で行われたサッカーW杯の決勝戦でペナルティキックを外したイタリアのエース、天才バッショが手で顔を覆った姿が脳裏に浮かんだ。
 プレッシャーや緊張はアドレナリンの分泌を促すため、一概に悪いとは言えないが、五輪やW杯に出るほどの選手が経験するプレッシャーの大きさを実感。と同時に、跳び箱を前に「ぶつかったら痛いだろうな」「箱の手前に手をついたら失敗する」と考えると失敗するが、「踏切板は強く踏み、手は遠くに」と言い聞かせると跳べるという話も思い出した。
 皮肉エラーや過補償エラーは日常生活でも起こる。緊張で頭が真っ白になり、普段しないミスを犯したとか、人前で何かをする時は胃が痛くなり、体が震えたという経験を持つ人は多いだろう。
 そこで思い出したのが、喘息で苦しみ抜いたが、「治る、治る、絶対治る」と念じて喘息を乗り越えた人の話や、自家用機を入手し、飛行機事故で死んでも本望と言い出した男性が本当に事故で死んだという話だ。雪のない季節もイメージトレーニングをすることでスキーが上達した人もいる。
 これらは全て、言葉やイメージが持つ力の大きさや大切さを教えてくれる。幼少時から「お前ならできる」と言われて育つとポジティブな人になることや、セルフイメージがしっかりしていると周囲の評価に振り回されなくなる、母親のように生徒を愛す教師がいたスラム街では犯罪が極度に少ないという例も原則は同じだ。
 「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」(山本五十六軍司令官)という名言ではないが、見本となるものを持ち、称賛や叱責を受けながら、練習でイメージと実際の差を縮める経験を重ねることで皮肉エラーは減らせるという原則も心にとめたい。(み)

(1)https://sndj-web.jp/news/002807.php

(2)https://ge.globo.com/olimpiadas/noticia/2024/07/30/com-sangue-suor-e-brilho-brasil-e-bronze-por-equipes-na-ginastica-nas-olimpiadas-2024.ghtml

(3)https://www.nhk.jp/p/ts/YM3WKRZWZQ/blog/bl/pJN4zneEyV/bp/pD6k0B90B1/ 7月20日


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