《記者コラム》ボルソナロ恩赦デモ、なぜ不発に?

痛恨の瞬間だった。16日にボルソナロ前大統領が起こした恩赦法デモのことだ。同氏が「参加者100万人を集めて連邦議会や最高裁にプレッシャーを」と息巻いていることは事前に伝えられていた。だが、蓋を開けてみれば100万人どころか10万人もいない。統計によっては参加者2万人弱というものまである。演説を行うボルソナロ氏の背後に「セン・アニスチア(恩赦なし)」と書かれたボードがデカデカと掲示され、その皮肉的な光景は瞬く間に拡散された。恩赦法デモは屈辱的な結果に終わった。
この結果はボルソナロ陣営に取って予想外だったのではないだろうか。ボルソナロ陣営では、ルーラ大統領の支持率が急落している昨今、「今こそルーラ大統領に代わるべき存在としてボルソナロ氏を」との待望論が巷に生まれ、そのための恩赦を求める動きも出ると読んでいた節がある。
だが今回の結果は、いくらルーラ氏の治世が世の期待に添うものでなかったとしても、選挙法違反、さらにはクーデター疑惑をひっくり返してまでボルソナロ氏を熱望する人は少ないということを示した。国民は、ボルソナロ氏を「無実」とは見なしていないのだろう。
ことは三権中枢施設襲撃事件に限ったことではない。ボルソナロ氏は選挙前年に投票機の機能にケチをつけ、それに呼応するように国防省が投票の監査を執拗に望んだ。ボルソナロ派中小企業による従業員の票買収疑惑の多発や、投票日に道路警察がルーラ支持者の投票足止めを試みたとの報道が行われてきた中で、ボルソナロ氏が「クーデターなど考えてもいない。迫害だ」と訴えても、「虫が良すぎる」と思う人が少なくないということなのだろう。
またデモ後、ボルソナロ氏の3男、エドゥアルド氏が「迫害されたから米国に留まる」と発言し、話題となっている。彼の指す「迫害」とは何なのか。彼が「虚報を使って政敵を攻撃する自由が奪われることを嘆いている」という話はよく耳にする。「迫害された」と言っても、パスポートの没収はされておらず、帰国すれば下院に自身が率いる委員会も存在する。迫害を受けている人にしてはかなり余裕のある状況に見える。
ボルソナロ氏のクーデター捜査に関する審査が間もなく始まる。被告になるなどの決定が下された場合、果たしてボルソナロ陣営はどういった反応を示すのか。(陽)