《記者コラム》「健やかな心」を保とう=立ち止まることの必要性

ワールド・サーフ・サーキット第3ステージを終えた時点で世界ランキング17位のブラジル人女性サーファーのタチアナ・ウェストン・ウェヴ(28歳)が3月27日、精神面の健康を保つため、年内の競技会を欠場すると発表した。(1)(2)
タッチの愛称で親しまれ、最近のオリンピックには2回連続で出場。パリ五輪では銀メダルを獲得し、女子サーフィンでブラジル初のメダリストとなった上、この10年間は世界大会にも常に参加していたが、そのことが精神面、肉体面に疲れを生じさせていることに気づき、精神的な健康にもっと注意する必要があると考えたのだという。
また、心理学者と相談した結果、通常は過労によって起こる職業的疲労症候群である「燃え尽き症候群」に陥り得る精神的、肉体的疲労を示す兆候が確認されたこと、サーフィンへの情熱を保ち、将来も高いレベルで競技を続けるための健康管理を行うための中断であることも明らかにした。
また、スポーツ選手が精神的な健康や感情について話すことの大切さも強調。「弱さを見せても、強さが失われる訳ではない。逆に、より人間らしくなり、つながりもさらに深まる。また、競技の内外で自分の潜在能力を最大限に発揮できるようになる」と述べ、「一時的な中断は終わりではなく、新たな始まり。周囲の支援があれば、これまで以上に強くなり、より高い意識、より強い情熱を持って海に戻って来れると確信している」と結んだ。
休暇中は多職種のチームと協力して回復とバランスに集中し、家族と過ごす時間も増やすという。また、他の人達が自分自身を大切にするよう促すことにも時間を使うつもりだ。
このような決断をしたサーファーは他にもいる。世界大会を2度制したフェリペ・トレドは1年前に世界大会への参加中断を発表。ガブリエル・メディナも22年に5カ月間、競技参加を中断した。
米国の体操選手シモーン・バイルスが五輪の東京大会を途中棄権したのも「心の健康」を優先した措置だった。
「健やかな心」をインターネットで検索すると、心が健康であるというのは自分らしく生きられているということで、「自分の感情を我慢することなく表に出して、楽しい感情やワクワクする感情を持ち合わせていること。日々の生活で何らかの問題点に当たったとしても、スムーズに解決に導けること」とあった。
そういう意味で考えると、自分は健やかとは言えないと感じる人や、心中を吐露できず、溜めている人も多いはずだ。2日には、入院するほどの精神疾患を患う母親が、講座の受講料を払うために子供を売ることを考えていたと語っている記事も出た。(3)
仕事が忙しく、以前はできていたことができなくなったとか、家族と過ごす時間が減ったという人も多いだろうし、自分を肥やすための時間がとれていないと感じている人も多いだろう。共働きの知人は、時には、掃除や食器洗いを後回しにして寝ることも必要と話していた。

タチアナの話が報じられる前日には、サンパウロ市中央部Sesc14Bisで8月8日まで、日常生活から離れて休息をとるようにと呼びかける「シャマーダ・デ・パウザ(Chamada de Pausa)」という展示会が開かれているという記事も見た。(4)
大勢の人の中にいるのが苦手なら、心を許し、弱さも出せる少数の人との関係を深めることが大切だ。しばし立ち止まり、自分自身と向き合い、自分自身を健やかに保つための中断、自分自身を出せる場や人の確保を考える時間は薬やお金以上に大切だと思わされている。(み)