《記者コラム》モラエス判事を個人攻撃=最高裁は合議審なのに?

サンパウロ市パウリスタ大通りで6日、23年1月8日に起きた三権中枢施設襲撃事件の被告や判決を受けた人達への恩赦法擁護デモが行われた。デモではボルソナロ前大統領支持者のシラス・マラファイア牧師がアレッシャンドレ・デ・モラエス最高裁判事を個人攻撃し、他の最高裁判事達からモラエス判事を孤立させようとする動きが見られた。(1)
マラファイア氏は演台に立ち、「最高裁判事達はいつまで法衣を着た独裁者を支持するのか」「アレッシャンドレ・デ・モラエス判事は最高裁を不正と安っぽい政治の最高裁にしようとしている」と述べた後、「尊敬すべき最高裁判事の皆様、この国で最も重要な裁判所の評判を汚さないでください。国民こそが最高権力者なのです。平和的な人々に迷惑をかけないでください」と呼びかけた。
マラファイア氏の論には、米国下院委員会がモラエス判事の米国入国を禁じ、入国した場合は逮捕、強制送還するという法案を承認した時と同じ違和感を覚えた。
違和感の原因は、モラエス判事を「法衣の独裁者」とし、同判事の判断は全て、単独で下しているかの表現をしているからだ。
米国の措置については、モラエス判事と反目するボルソナロ前大統領が米国にブラジルの情報を自ら流していたことを認め、前大統領三男のエドゥアルド氏は下議職を休職してまで、モラエス判事を犯罪者扱いするよう、米国内で働きかけるつもりだと語っている。
こうした背景もある中で、マラファイア氏が、合議審である最高裁の判事を、個人の判断で全てを決める独裁者と決めつけ、攻撃することには、納得のいかなさを感じる。同氏の行う批判や注文は、検察庁の存在を無視し、他の最高裁判事をも批判することになると思うのだ。
弊紙の記事にこそなっていないが、先日はボルソナロ氏に逮捕要請が出て、モラエス判事が検察庁に検討を依頼。同庁が逮捕に反対する意見書を出したため、モラエス判事が要請を却下するという出来事があった。6日のデモで行われた、最高裁前の「目隠し裁判の像」に落書きした美容師の長期勾留と14年という求刑内容への批判も、検察側の起訴状や意見書に基づいて審理が始まり、刑期などが判断されていることを忘れた発言としか思えない。
モラエス判事は虚報関連の訴えやクーデター計画疑惑などを扱っており、右派の大物から疎まれているのは事実だが、的を外した批判は本人達の視点の偏りも示す。全ての物事を正しく理解し、正しい判断を行うことは困難だが、メガネが曇っていれば見えるべきものも見えなくなるし、1人で判断すれば間違いも起き易い。だから、最高裁は合議審を行い、検察に分析や意見書提出も求める。
ボルソナロ氏らが被告となった第1小法廷での審理では全員が報告官の意見に賛同したが、報告官に反対する意見が大勢を占める例もあることを考えれば、同日の審理の結果は各判事には各自の意見や判断を表明する権利と義務があり、最高裁判事達がモラエス判事の立場や判断を支持したことの証拠だと言える。
天秤座の性格からか、両方の声を聴かねばと思うタイプのため、決断が遅れたり、相手を否定できず、甘過ぎると言われることもあるコラム子だが、一面だけを見た判断や思い込みはやはり避けたい。市警や連警といった捜査機関や検察、裁判所関係のシステムを含めた理解した上で、建設的な批判をと願うのは間違いではないと思うのだが。(み)