《記者コラム》フランシスコの経済運動=人間の尊厳や社会正義重視

フランシスコ教皇の死に世界中が衝撃を受けた。記事作成のため教皇の事績を辿っていると、教皇に触発され組織された「フランシスコの経済」と呼ばれる経済運動があることを知った。(1)
カトリック教会の最高責任者としての12年間、常に弱者や貧者に寄り添ってきた教皇は「共産主義者」と呼ばれたこともあったが、「共産主義ではない、福音だ」と語り、最後まで神の僕であり続けた。
そんな教皇に触発された若い経済学者や起業家、研究者が始めたこの経済運動は、人間の尊厳、社会正義、平和、環境への配慮を優先する経済システムを加速させるプロジェクトや研究に投資することを目指しており、その活動はブラジルを含む20カ国以上に広がっている。
この経済運動は英名の「The Enconomy of Francesco」の頭文字をとって、EoFと呼ばれている。
EoFは、より包摂的でグローバル化された経済の創造をとの呼びかける新世代の人達が立ち上げた。
EoFは教皇同様に、富を放棄して貧しい人々に奉仕することを重んじたアッシジの聖フランチェスコの生涯にインスピレーションを得ているという。聖フランチェスコはカトリック教会フランシスコ会創始者で、動物と環境の聖人としても知られている。
教皇は2019年5月、「命を生み出し、包摂し、人間性を育み、環境を大切にする経済」を学ぶ若者が集い、今日の経済を変え、明日の経済に魂を与えるための「協定」を結ぶためのイベントを企画し、全ての若いカトリック教徒に招待状を送った。
イタリアのアッシジ市で開かれるこの会合は、教皇や経済界の経験豊富な専門家も参加し、経済と進歩に関する新たな理解、無駄な文化との闘い、恵まれない人々に発言権を与える方法、自然への敬意と最貧困層への支援に基づく新たな生活様式などを協議するはずだったが、パンデミックで延期された。
だが、この招待状を機に、世界各地数千人の学生や経済学者、起業家達が3年間、オンラインイベントを開き、新経済実現加速のために研究を開始。個人や共同のプロジェクトも支援し始めた。
対面での会合は22年9月に実現した。この時、多くの若者が、様々なシステムと経済を戦争資金の提供から切り離し、兵器拡散と闘い、全ての人に奉仕する「福音の経済」に変革することを誓う協定に署名した。

協定では「誰一人取り残さない経済、全ての人達の尊厳ある安全な仕事を認め、守る経済、金融が実体経済と仕事の友となる経済、文化、民族の伝統、全ての生物、地球の天然資源を守る経済」が定められたという。
EoFは、教育と研究、起業家精神、地域及び世界規模のイベントを活動の柱とし、EoFアカデミーやEoF夏季学校などの教育プロジェクトも展開している。講義やパネルディスカッション、メンタリング、ワークショップでは各地域で独自のビジネスを展開できるように奨励、指導し、財団や協会、民間団体とも提携している。
また、11月には「人々の生活に奉仕する経済」を目指す世界規模のイベントを開催。4~11月はその準備期間で、倫理的な銀行や企業を選び、消費主義を減らすなどの個人的な目標を立て、人間の尊厳を尊重する金融モデルを推進している都市を散策することなどを世界中の若者に呼びかけているという。
誰も取り残さず、全ての人の尊厳を認め、民族の文化や伝統、全ての生物、地球の天然資源を守るといった協定の内容は教皇の生き様そのものだ。神と人を愛し、常に人の間で過ごそうとした教皇は、弱った体で最後まで人々を祝福し続け、「ありがとう」の言葉で生涯を閉じた。教皇が支持した経済運動が多くの人を救い、生かすことを願ってやまない。(み)